働き方改革を巡る視座『教育学者としての問い』(2)教員多忙化は教育の危機

学校の働き方を考える教育学者の会

私も呼び掛け人の一人として名を連ねている「学校の働き方を考える教育学者の会」は、2018年12月4日、文科省記者クラブで記者会見を開いた。

この会見で私たちは、中教審の学校における働き方改革の審議内容に意見した。教員の勤務時間の「上限規制」や「変形労働時間制」は現状の容認であり事態の解決につながらないこと、「定額・働かせっぱなし」の法的根拠は「給特法」にあり、廃止を前提に解決を図るべきであることを訴えた。

71年に制定された給特法は、残業手当を廃止し、教員の月平均残業時間から算出した「教職調整額」(給料の4%)を設けた法律である。指標とした当時(66年)の月平均残業時間は8時間だったが、現在、その実態は大きく変化している。

文科省の16年度「教員勤務実態調査」によれば、過労死ラインの月80時間を超えて働く教員は、中学校で約6割を占める。ことの本質は、教員の人権が著しく侵害されている点にある。

私たちの訴えをよそに、中教審は19年1月25日に「月45時間、年360時間の上限規制」と「年単位の変形労働時間制」を盛り込み答申した。上限規制に罰則規定はなく、努力目標にすぎない。中教審委員は学校の現実に対する感受性を失っているというほかない。

前述の実態調査では、時間外勤務が月45時間を超える小学校教員が約82%、中学校教員は約89%に上っている。ほとんどの校長と教員はこの答申の実効性に疑念を抱いている。

校長や行政に、たとえ教員が過労死しても訴訟で負けない保障を与えたにすぎず、教員に対する人権侵害が一層強まる危険性さえ秘めている。

昨年度の都道府県や政令指定都市の教員採用倍率は軒並み低下している。今年度の小学校の採用倍率は、把握している限り、12の都道府県・政令市が1倍台に突入した。教員全体の採用倍率が12.5倍だった00年度と比較すると、著しい下落である。

私が最も懸念するのは、教職が公的サービスの奴隷に転落している現実である。教職の尊厳が尊重され、社会の信頼と尊敬が基盤になければ、教育は次世代の子供と社会に貢献できない。

その意味で、労働時間と給与に関する教職の待遇改善は、子供たちと日本社会の未来を決定する喫緊の課題である。

(佐藤学)


【プロフィール】

さとう・まなぶ 「学校の働き方を考える教育学者の会」呼び掛け人。学習院大学特任教授。学校改革の理念として「学びの共同体」を提唱。著書に『学校を改革する 学びの共同体の構想と実践』(岩波書店)、『学校改革の哲学』(東京大学出版会)など。