働き方改革を巡る視座『教育学者としての問い』(5)変形労働時間制の副作用

学校の働き方を考える教育学者の会

今回の中教審答申では、学校の働き方改革を進める方策の一つとして、1年単位の変形労働時間制の導入が提言された。学校の授業期間と長期休業期間に繁閑の差があることから、業務繁忙期には法定労働時間を延長する代わりに、閑散期は勤務時間の短縮や休みのまとめ取りで教員の勤務時間を1年単位で調整しようとする、教員の勤務時間「改革」の方策である。

文科省の勤務実態調査で明らかなように、小学校で3割超、中学校で5割超の教員が、過労死ラインとされる月80時間以上の時間外勤務を強いられている。こうした実態を改善しないままこの制度を導入すれば、教員の長時間労働を固定化、恒常化する恐れが強いと言わざるを得ない。繁忙対応型の変形労働時間制は繁忙期の職務負担が大きく、肉体的にも精神的にも疲労が深くなり、かえって教員の命と健康を脅かし、生活設計にも深刻な影響を及ぼしかねない。

変形労働時間制は所定労働時間の変形にすぎず、その下でも所定外労働時間は発生する。そのため、この制度を教員に導入するとしても、発生した時間外労働に対しては時間外勤務手当を支給すべきである。にもかかわらず、手当支給の検討すらされていない。

また1994年の労働省労働基準局長通達によると、変形労働時間制の導入は「突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提」としている。教員の恒常的な時間外労働の実態が是正されない限り、制度導入は前提条件を欠いている。

さらにこの制度は、使用者側が「あらかじめ」業務繁忙期に法定労働時間を超える所定労働時間(1日10時間、1週52時間以内)を一方的に設定し、長時間労働の合法化を図ろうとするものだ。導入に当たっては、特定期間の労働時間が集中的に長くなるなど労働者の生活に悪影響をもたらす恐れがあることから、労働基準法上「労使協定」の締結が不可欠であるが、公立学校教員には困難であり、このままでは教員側の意見が反映されない。

たとえ「善意の発想」から提案されたものだったとしても、教員の残業縮減という確かなエビデンスが勤務実態調査などで提示されない限り、変形労働時間制の導入は副作用の大きい、長時間労働の解消には決してつながらない方策といえる。

(樋口修資)

【プロフィール】

ひぐち・のぶもと 明星大学教授。文科省スポーツ・青少年局長などを経て現職。専門は教育行政学、教育政策論。著書に『教育委員会制度変容過程の政治力学』(明星大学出版部)、『最新 教育の行政・制度と学校の管理運営』(同)、『学校をブラックから解放する』(編著、学事出版)など。