クオリティ・スクールを目指す(148)「ほんものの私になる」ために

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

哲学・対話する中学生

新指導要領は小学校からキャリア教育が実施されるが、将来何になりたいか漠然と夢を述べたり、型通りの職業体験で終わる例であったりする。キャリア教育の根底に「自分を深く見つめる」態度や思考を磨くことが必要ではないか。

極めて興味深いことに、「ほんものの私になる」というテーマで哲学・対話を実践した中学校がある。東京都杉並区立井荻中学校(赤荻千恵子校長)である(『中学生が哲学・対話するキャリア教育』学事出版、2019)。

冒頭に「ほんものの私になる」を学んだ卒業生2人の記録が載っている。1人はドイツ語を専攻する大学生、1人はダンス部所属の高校生。2人とも「ほんものの自分になる」言葉に啓発されて、自分の好きな道を強固に歩みはじめた存在である。ただ、このテーマを自分のものとして考え、追究することはかなり難しい。「汝(なんじ)自身を知れ」とはソクラテスの命題だが、難しい故に語り継がれてきたのである。ともすれば抽象の世界で自己満足して終わる可能性がある。

そのため、恐らく指導する教師も学ぶ生徒も最初は戸惑いながらも、徐々に「ほんものの自分になる」道筋を探り始めたのであろう。その道筋の過程に教師や仲間との「対話」が有効な働きとなったのである。この実践は「対話」を極めて重視する。①中学生は真剣に話し合う場を求めている②対話することから得られること③質の高い対話にするためのポイント④価値を共有する空間を創る=文化を創る⑤世界との対話が人生を支える糧になる――と述べている。

さらに立春式や「ほんものの私になる」について語る会、「私の提言(在校生へのメッセージ)」などの場を設定して、具体的な取り組みを行っている。外部からの講師を招聘(しょうへい)して話を聞く機会を多く設定している。さらに生徒が作文やワークシートを書く取り組みを3年間で27回実施している。その中には、職場体験や地域の大人とのディスカッション、意見交流会などがある。このような過程の中で重視しているのは、個々の生徒の自己への信頼や将来に向けた行動力の形成である。キャリア教育の基盤の重視である。

このように井萩中学校の実践は極めて興味深いものがあるが、かつて中学生がグループごとに自分たちが選択した企業などを訪問し、そこから社会的な企業の使命について学ぶという実践がみられた。「世界との対話が人生の糧になる」ことは確かで、もし可能であればさらに学ぶ機会や場を現代の先端を行く企業に向けるなど、視野を広げるのはどうであろうか。社会構造が大きく変わろうとしている今日、中学生にとっても切実な課題として受け止められるのではないか。

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