クオリティ・スクールを目指す(150)社会情動的スキルの世界

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

スキルがスキルを生む学び
わが国の学力は、OECDのPISA調査にみられるように国際比較ではトップレベルに位置している。しかし、学力のみでは十分ではない。日本人の傾向として勤勉で礼儀正しい国民性を持つが、自尊感情や自己肯定感などは劣っているとされる。若者の「自己評価」の低さはさまざまな調査にみられることである。 そこで、自立のための教育など、そうした課題を解決する教育の在り方が必要だが、これまで十分ではなかった。 しかし最近、幼児期から必要な教育として「非認知能力」の育成が急激に話題になっている。ただ、学力など測定可能な「認知能力」に対して非認知能力は、「根気強さ」「やり抜く力」「協調性」「思いやり」など多様で、指導が難しいと考えられている。 そうした課題解決に向けて極めて示唆に富んだ図書がベネッセ教育総合研究所の企画・制作によって生まれている。OECD編著の『社会情動的スキル』(明石書店、2018)である。 「社会情動的スキル」(社会的情動スキルと言い換えたくなるが)は非認知能力とほぼ同じと考えるが、極めて重要なことは社会的な情動を「スキル」と捉えていることである。スキルであれば、繰り返し学び続けることが可能であったり、また上手下手があったり、学ぶこつもみられる。確かに、「やり抜く力」のように、ある物事を成し遂げようとする場合、単に頑張るのみでなく、やり方を考える、スキルを磨く、などの具体的な方略が大事になる。この図書は「スキルがスキルを生む」と言っている。幼児の頃、身に付けたスキルが、成長に応じてさらに豊かなスキルの獲得につながると考えている。 興味深いことにOECDでの研究では、社会情動的スキルは国によって異なるという。確かに、わが国は若者の自己評価が低いという固有の課題がある。 そうした課題解決に向けた教育の取り組みを確立するためにも、社会情動的スキルの具体的な実践に期待したい。 さらに社会情動的スキルは学力形成などの認知的スキルと対立するものではない。むしろ、認知的スキルを促進する働きを持つ。また、他者と協働しながら物事を解決する相互理解やコミュニケーションをよりよく発達させる働きがある。その意味で、これまで認知的スキルの形成を偏重してきた考え方を改め、社会情動的スキルを適切に取り入れながら、両者のバランスを考えた教育方策を生み出す必要がある。 それは近未来のAI時代に向けた人間の生き方につながる課題でもあって、社会の変動への柔軟で強靱(きょうじん)な対応力は、社会情動的スキルが支えになると考える。