論理的思考を鍛えるアカデミックライティング (1)論理的思考はスキルである

文部科学省 教科書調査官 渡辺 哲司

この連載の想定読者は、主に中学校や高校の、次いで小学校や大学の教室で生徒(児童や学生)たちの論理的思考を鍛えるために奮闘している先生たちです。

そうした先生たちに向けて、アカデミックライティングは論理的思考を鍛えるよい手段である――という私なりの考えを述べていきます(全10回)。あくまでも「私なり」の考えですから、おかしいと思うところは遠慮なく批判してください(ご意見は編集部まで)。

さて、第1回のポイントは「論理的思考は人間の頭の自然な働きを生かしたスキル(技術)である」ということです。論理的思考をスキルとして捉えることによって、その学習・指導はいくらか容易になるでしょう。一方、論理的思考をスローガンや心掛けのように漠然と捉えているうちは、学習・指導の成果も上がりにくいでしょう。

ここでスキルとは①意図的に実行する(して見せる)ことができ②その実行過程をある程度言葉で説明することができ、さらに③練習によって身に付けることができる――ような、心身の行為をいいます。その点では、例えば野球のピッチング動作―人間の長い四肢(腕、脚)や器用に動く手を生かした運動技術―と質的に同じです。

教育上、スキルの最も大事な性質は前述の③、すなわち練習によって身に付けることができる点です。

論理的思考は、それを生まれながらに完璧に身に付けている人など一人もいない代わりに、練習によって誰でも一定のレベルまで身に付けることができます。ここでも野球に例えるなら、プロ選手になれる人は少ないものの、草野球をプレーできる(スキルを実行して楽しめる)レベルまでなら大抵の人が到達できるのと同じです。

私の目標は、これから日本で大人になる全ての人が、論理的な思考(および表現、コミュニケーション)を少なくとも「草野球レベル」で実行できるようになることです。その目標に近づくため、本連載では、論理的思考の優れたトレーニング手段であるアカデミックライティングを、なるべく興味深く、分かりやすく説明するように努めます。

また、論理的思考を鍛えるアカデミックライティングの一般的・原則的な事項だけを整理して述べることにし、それよりも専門的な話は一部の特別な人たち(プロ)の手に委ねようと思います。私自身は、ライティング(言語技術)教育に強い興味を持つアマチュアの一人にすぎませんから。


【プロフィール】

わたなべ・てつじ 文部科学省初等中等教育局教科書調査官(体育)。東京大学教育学部・同大学院教育学研究科修了。専門は発育・発達学。開成高等学校非常勤講師、九州大学アドミッションセンター講師、同学高等教育開発推進センター准教授を経て現職。著書に『ライティングの高大接続 高校・大学で「書くこと」を教える人たちへ』(共著、ひつじ書房)など。