令和時代の扉を拓く(5)徳仁親王の「水」の講演を読む

教育創造研究センター所長 髙階 玲治

徳仁親王、つまり今上天皇が皇太子のとき、各地で講演した記録を『水運史から世界の水へ』(NHK出版、2019)として出版された。

学習院大学当時から水運に興味を持たれ、室町時代の神戸の入港税が研究のスタートという。その後、オックスフォード大学に留学、17~18世紀のテムズ川の水上交通について研究し、その内容を詳しく述べているだけでなく、日々の研究生活についても記されていて興味深い。

その後、水との関わりに広く関心を持たれ、京都や江戸の水運の成り立ちにも詳しい。その研究は水を中心にしていることから、京都での世界水フォーラムで講演を行い、さらに国連の水と衛生に関する諮問委員会の名誉総裁を務められていた。

そのような中で親王の思いは図書名にあるように、「水運史」から「世界の水」へと大きく変わりつつあることを示している。

18年にブラジルでの第8回世界水フォーラムで基調講演をされているが、水が農地に変えていく話や地球全体の繁栄に果たす水の役割、最近の気候変動と水災害などについて語っている。また、東日本大震災では心を痛められ、被災地を訪問されていた。

今後、天皇として講演なさる機会が持てるかどうかは不明だが、水に関する多様な課題について自らの考えを世界規模で述べられることに期待したい。

その意味で、「象徴」でありながら、それを超えた存在としてのありようをどう示していかれるか興味深いことである。その関心は日本のみでなく、世界に広がっているからである。

思うに、私たち国民は希有な存在を天皇としていただいたことになる。

令和の時代は、新しい天皇と共にあるが、これまでと違った「象徴」の存在が見えてくるという予感がある。新しい役割への期待でもある。

「はじめに」の中に、「水問題は、あたかも水がどこにでも流れていくように、世界の紛争、貧困、環境、エネルギー、教育、ジェンダーなどさまざまな分野に縦横無尽に関わってきます」「水を通してこれらの問題に関心をもつことができたことは、とても有意義であり、私の視野を大きく広げてくれた『水』に感謝しています」と書かれている。

水のもたらす多様な課題との関わりとともに、水が安らぎをもたらすことの意味も大きい。最後に前田普羅の俳句を引用している。「立山の かぶさる町や 水を打つ」。立山がそびえる富山の夏の打ち水の風景である。

「人々がどこでも水とともに平和にゆったりと過ごせる世界を実現できるよう、今後とも取り組んでいきたい」と著書の最後に締めくくっておられる。豊かな感性への期待もふくらむのである。