論理的思考を鍛えるアカデミックライティング(7)パラグラフ・ライティング(上)

文部科学省 教科書調査官 渡辺 哲司

「パラグラフ・ライティング」とは、パラグラフを基本単位とする作文法であり、論理的な文章を組み立てる際の基盤技術です。

パラグラフは、高校までの国語が教える「段落」に似て非なるものです。似ているのは、その外形。非なるのは、内部構造に一定のルールがある(段落にはそれがない)ところです。

パラグラフも段落も、改行と字下げによって周囲から視覚的に区切られるところ、そうした区切りが話題の転換や意味のまとまりを表すとされるところは同じです。

ただし、パラグラフにだけは、内部構造に次のような一定のルールがあります。すなわち、一つのパラグラフには、全体を統括・代表して他のパラグラフと論理的につながるセンテンス(中心文)が一つだけあって、大抵はパラグラフの先頭に置かれます。その後に続くセンテンスは「サポーティング(支持する)センテンス」と呼ばれます。

そうした構造によってどんな利益がもたらされるかは、次回に述べます。

さて、そのようなパラグラフおよびパラグラフ・ライティングは、名称が暗示するとおり英語由来のものですが、日本でも既に、学術界や国際性のあるビジネス界、さらには大学教育界において標準的な作文技術となっています。

一方、日本の初等中等教育界では従来ほとんど教えられなかったため、大学新入生がレポート課題に取り組む場面で当惑するような構造が出来上がってしまいました。ただし潮目は変わりつつあります(第9回で述べます)。

パラグラフ・ライティングのルーツは、19世紀後半のスコットランド。のち、1970年代の米国で現在あるような姿になったと言われます。いずれの地でも、産業革命後の公教育の急拡大期に、誰もが習得できる実用的な言語技術として磨かれ、広まっていった点は見逃せません。

日本へは、遅くとも80年ごろには紹介されています。それから数十年を経た今日でも適当な訳語がないのは残念ですが、反面、英語のままで異国の人と文章談義を交わせるところが魅力、と言えるかもしれません。

ちなみに、国語式「段落」も明治以降に当時の欧米式パラグラフ(今日から見れば旧バージョン)を移入したものであることを、念のため記しておきます。日本には古来「段落」の語と概念はありましたが、現在のように定まった形状の段落はありませんでした(詳しくは拙著『ライティングの高大接続』を参照)。