【校長としての心構え(19)】自校の課題を分析する大切さ①

元東京都立西高等学校長 石井 杉生
この連載の一覧

課題論文から職務論文へ

2005年4月、教育政策室副参事から人事部試験室長に異動になった。ちょうどその年から、東京都の校長選考が課題論文から職務論文に変更された。課題論文とは、多くの自治体の教育管理職選考で採用されている試験形式で、その場で出題された課題について、制限時間内に2000字以内で論述するものである。

当時、都では人事考課制度をはじめとする一連の教育改革により、校長の権限が明確に規定され、リーダーシップを発揮できる環境が整ってきた。校長は今まで以上に、指導力・統率力のある学校経営が求められるようになったのである。

しかし、従来形式の課題論文では文字数に限りがあることも手伝って、十分な原因分析がなされぬまま解決策に飛躍し、その有効性がよく分からないものが多かった。また、実践的な課題解決力よりも知識偏重の傾向にあり、中には問題と正対しない持論を展開した論文や、ただ美辞麗句を並べただけの論文もあった。そこで考え出されたのが職務論文である。

職務論文とは

職務論文は、受験者が現在担当している職務の中から自ら課題を設定し、課題解決のための方策を提言する論文形式である。したがって▽日頃から職務にどれだけ自覚的に取り組んでいるか▽課題の原因分析を論理的に深め、それに正対した解決策を具体的に、実現可能な形で提言できているか――に評価のウエートが置かれている。

職務論文の解説本によれば、「何が学校現場で問題になっているか」「なぜその問題を学校現場で解決できないのか」「問題解決のため、校長として具体的にどのような方策を講じればよいか」を論じるとある。

ここで問われているのは知識というより、日頃から課題意識を持って職務に取り組んでいるか、解決に向けてどのような努力を積み重ねているかという「実践力」である。その力量を見るには、ありのままを丁寧に記述する時間と文字量が必要になる。自宅でも執筆できることとし、文字数も従来の倍に当たる4000字とした。

試験としての公正性

職務論文試験を実施する上で気になるのは公正性である。自宅での執筆が可能なら、他人のアドバイスを受けたり、参考文献から引用したりしてもいいのか、それで公正性は担保されるのかという問題である。

人事部からの通知によると、「アドバイスは積極的に受けるように」とあり、特に校長からの指導は必ず受けるよう指示している。また、職務論文執筆の勉強法として「現任校の問題事例や解決策を持ち寄って検討し合う『事例検討会』を有志で立ち上げ、課題の捉え方や解決策について議論することも有効」としている。

つまり、課題をどのように見つけるか、見つけた課題の原因分析をどのように深めていくかについてはむしろ積極的に情報交換し、共に学び勉強しながら獲得するべきと考えているのである。

一般的な方法論は共通して学べる。ただ課題は学校ごとに異なるため、自校の解決策は自校でしか導き出せないという考えが根底にある。論文にまとめ上げる作業は自分でやるほかないのだ。

また、仮に論文で合格しても、その内容をきちんと自ら消化しているかどうかは、面接時の口頭試問で明らかになる。実はこの職務論文は、既に都の行政系管理職選考で定着している選考方法であった。

自校の課題を分析する

職務論文は課題論文と違い、人から教えてもらった内容をまとめても合格してしまう可能性があるが、その点はよいのだろうか。職務論文を担当する試験室長として、「合格することはない」というのが私の見解だった。なぜそう言えるのかというと、職務論文で求められる自校の課題分析は、人から受けたアドバイスで書けるレベルではないからである。

「学校改革が進展しない学校」を例にとろう。改革が進展しない理由を「現状維持を望む教員が多い」と分析したとする。しかしこれで十分ではない。「なぜ現状維持を望むのか」というさらなる分析が必要である。

分析を進めると▽学校の現状に満足して改革の意欲に欠ける教員▽部活動などの活動に一定の充実感を得ており、それが阻害されるのを恐れ改革に反対する教員▽現状には満足していないが、改革に伴う混乱が入学希望者の減少につながると心配して改革に乗り出せない教員▽改革に全く無関心で早い異動を希望している教員――などが混在していると分かってきた。必要に応じて、これらをさらに細分化して分析することもあり得る。

このように、課題の分析は学校の内部にいて、実情を十分に知っている者でなければできないものであり、その分析に正対した解決策が求められるのが職務論文である。安易なアドバイスが通用する代物ではないし、仮にアドバイスを基に執筆したとしても、学校独自の分析ができていれば、結果的にその人は校長を任せられる力量が備わっていると考えられる。

この連載の一覧
関連記事