【校長としての心構え(20)】自校の課題を分析する大切さ②

元東京都立西高等学校長 石井 杉生
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価値を置く対象の違い

前回触れたように、職務論文は既に東京都の行政系の昇任試験で導入されていた試験形式であった。職務論文による選考という発想は、おそらく教員系の職員からは出てこないだろう。私も当初、自宅で書くという点、人からいくらアドバイスを受けてもよいという点に関しては、納得するのに時間がかかった。

日々生徒の指導に当たる教員は、独自性・創造性に大きな価値を置く傾向がある。つまり、誰も思い付かなかったことを思い付いた人は素晴らしいという価値観である。従って、論文を読んでユニークな発想に出合っても、その実現可能性や解決策へのプロセスより、発想そのものに高得点を付けてしまうきらいがある。

しかし、職務論文で価値が置かれているのは、課題の分析力とそれに正対した対応策である。自校の課題をどれだけ分析できるかは、日頃から自覚を持って課題に相対しているかどうかにかかっている。

むしろ、何度か改善に失敗している副校長の方がしかるべき問題意識を持っているケースもあり、それが原因分析のさらなる追究の動機になる。

合否を分けるポイント

職務論文の合否を分けるポイントは、ずばり、原因分析の深さである。

「学校改革が進展しない学校」を例にとろう。理由を分析すると現状維持を望む教員が多く、具体的には▽学校の現状に満足して改革の意欲に欠ける▽部活動などに一定の充実感を得ており、それが阻害されるのを恐れ改革に反対する▽現状には満足していないが、改革に伴う混乱が入学希望者の減少につながると心配して改革に乗り出せない▽改革に全く無関心で早い異動を希望している――教員が混在していると分かった。

ここで分析を終わらせず、さらに深めてみる。「なぜ現状に満足してしまうのか」「学校全体でなく部活動を優先して判断する理由は何か」「なぜ入学希望者の減少を想定するのか」、また必要に応じて、生徒の実態や地域の影響を分析してもいい。

ここまで掘り下げていくと、それぞれの学校特有の原因があることに気付くだろう。逆に言えば、自校にのみ当てはまる原因に突き当たるまで、分析を進める必要があるということだ。原因の分析が甘いと、改善につながる解決策は示せない。

しかし、一定の深さまで原因を捉えていれば、原因に正対した解決策を考えるのにさほど苦労は要らず、複数の対応策も検討できる。大切なのは論理性と根気強さである。

合格する職務論文

極端に言えば、自分で発想できず人からそれを聞いたとしても、分析の手法や根気強く原因を追究する論理性を習得できれば、合格する職務論文が書ける。

私が職務論文の採点に携わった際には、なかなか読み応えのある論文が多かった。会場論文の場合、しゃれた言葉を使うなど修辞的には優れていても、論理的な解決策とは言い難いものが多かったが、合格する職務論文の課題分析はそれよりも格段に深く掘り下げられており、解決策も具体的で、課題の解決が望めそうなものが多々あった。まさに実践的な課題解決能力を育成する選考方法だと感心した。

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