【ICTと教育格差(1)】教育格差の観点からコロナ禍でのICT導入を振り返る

多喜弘文 法政大学社会学部准教授

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 2020年2月27日、政府は新型コロナ感染症の感染拡大に伴い、全ての学校に対して臨時休業の要請を出した。当初、この休業は新学期が始まるまでの緊急避難的な措置として受け止められていた。ところが、春休みが明けてもコロナ禍は収束せず、全国の小中高校生の大半が5月末まで、通常の登校ができない状況に置かれた。

 この未曽有の事態において注目を集めたのが、ICT(情報通信技術)機器を利用した教育である。安全に学校に通えない中、子どもたちの「学びを止めない」ためにどうすればよいのか。ICTを利用したオンライン授業が社会的期待を集めたのは当然であった。

 ICT教育への期待は、突如として生じた脈絡のないものではない。今後折に触れて言及するように、当初から新学習指導要領において、ICTは重要な役割を与えられていた。とはいえ、そこで想定されていたのは、自宅にいる児童生徒が全面的にオンラインで授業を受講するようなものではなかった。ところが、感染症拡大に伴う世論の高まりを後押しに、学校現場は本来求められていた以上の内容とスピードでICT化への対応を求められた。

 緊急対応に次ぐ緊急対応の中で加速度的に進められたICT化は、日本の教育にとってどのような意味を持つのだろうか。さまざまな観点から検証していくべき時期に差し掛かっている。

 本連載は、「ICTと教育格差」と題して、学校現場へのICT導入がもたらす(もたらし得る)不平等を、公教育が担うべき役割との関わりで論じていく。筆者の専門とする社会階層論は、保護者の学歴や職業などの社会経済的地位(SES)、あるいはジェンダーや国・地域など、子どもにとって選択の余地なく決まってしまう条件によって生じる機会の不平等を問題とする。このように「生まれ」によって生じる教育機会の不平等のことを、松岡亮二准教授(早稲田大学)の著書に倣って「教育格差」と呼ぶことにする。

 筆者は、教育のICT化に特別否定的な考えを持っていないし、ICT化が教育格差を必ず拡大させると主張したいわけでもない。例えば、ICTは教育資源の行きわたりにくい地域や疾患をもつ児童生徒の学習の支援に役立てることもできる。要は今後の使われ方次第であろう。本連載では、コロナ禍において急速に進められたICTの導入と教育格差との関連をデータによって確認しつつ、公教育が果たしていくべき役割について論じていきたい。

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多喜弘文(たき・ひろふみ)
法政大学社会学部准教授。博士(社会学)。専門は社会階層論、教育社会学、比較社会学。教育機会の不平等とその日本的特徴について、データを使って実証的に研究する。著書に『学校教育と不平等の比較社会学』(ミネルヴァ書房、第9回日本教育社会学会奨励賞受賞)。共著(章分担執筆)に『教育論の新常識』(中央公論新社)、『高校生たちのゆくえ』(世界思想社)、『教育と社会階層』(東京大学出版会)など。

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