
多喜弘文 法政大学社会学部准教授
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第4回では、児童生徒の家庭のICT環境が学校ごとに異なっており、そこには教育格差が結び付いていることを確認した。このことは、2020年2月末に臨時休業へと突入した際、そもそもの初期条件に学校間の格差があったことを意味する。この点を踏まえ、第5回では臨時休業時に実施されたオンライン授業と教育格差の関連を検討する。

当初、臨時休業は新学期が始まるまでの緊急避難的な措置として受け止められていた。ところが、感染症拡大は収まらず、新学期が開始しても多くの自治体が休業を継続することになった。こうした状況の中、文科省は児童生徒の家庭環境に対する注意を喚起しながらも、ICTを用いた環境の整備や利用を呼び掛けている。同時双方向のオンライン授業はあまり実施されなかったが、授業動画やデジタル教材を用いた広義のICT利用は、それなりに多くの学校で実施された。
それでは、臨時休業の混乱の中、ICTを教育利用した学校にはどのような特徴があったのだろうか。図は、筆者が松岡亮二准教授(早稲田大学)と共同で内閣府が2021年5月末に調査したデータを分析し、臨時休業中に学校の実施する広義のオンライン教育を受けた割合を家庭の収入(世帯収入600万円を基準に二分)および都市圏ごとに示したものである。この図から、「収入高」で「三大都市圏」居住であると、学校のオンライン教育を受ける機会が多かったことが読み取れる。つまり、臨時休業中の学校のICT利用は、教育格差を伴っていたのである。
なぜ、このような結果が生じたのだろうか。臨時休業が長引く中、多くの学校は児童生徒の家庭ICT環境を調査した。その結果、各学校は自校に通う児童生徒の家庭ICT環境を知り、それを踏まえて方針を立てた。これに加え、勉強の遅れに敏感な大学卒の保護者が多い学校ほどICT利用の理解を得やすいといった状況もあったかもしれない。また、大都市圏の方が子どもや保護者、教師側もICTになじみを持っていただろう。こうした学校現場の対応の帰結が、図のような全国レベルの結果だったのではないだろうか。
臨時休業をきっかけに、学校のICT化への期待は一気に加熱した。対応できない学校を非難する論調も目立ち始めている。しかし、図の結果を踏まえるならば、「学びを止めない」といった言葉を錦の御旗として、学校現場に精神論で対応を迫ることに問題はないだろうか。次回はこの問題を考える。
※多喜弘文・松岡亮二、2020、「新型コロナ禍におけるオンライン教育と機会の不平等 プレスリリース資料」
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