【ICTと教育格差(6)】ICT導入は学校や自治体の「頑張り次第」か

多喜弘文 法政大学社会学部准教授

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 2020年の全国一斉臨時休業後、ICTの教育利用に対する世間の関心は一気に高まった。だが、「GIGAスクール構想」の前倒しや経産省の補助金事業などの後押しにもかかわらず、ICTの教育利用が思ったほど進んでいないという報道も数多く見られた。

臨時休業中に教育委員会が主導的役割を果たした内容と地域大卒比率の関連 (文科省の委託調査を分析した中教審資料(https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20210708-mxt_syoto02-000016642_16.pdf)※より抜粋)

 そもそも新学習指導要領が想定したICTの役割は、世間の期待したオンライン授業の実現とは必ずしも重ならない(第2回参照)。また、次の回で言及するが、臨時休業が明けて以降、学校現場は遅れを取り戻すべく多忙を極めていた。

 こうした状況を背景に、一時期頻繁に見掛けたのが、「学びを止めない」という言葉である。コロナ禍のような非常時において、周りのクラスや隣の学校の様子をうかがいながら判断を下していては物事が進まない。目の前の児童生徒のために、「できるところから」やっていくべきだ。これが、学校ICT化の文脈における「学びを止めない」という言葉の含意であった。

 学校現場がこれまでのやり方に固執してICT化を拒んでいたのであれば、このフレーズは効果を発揮するだろう。しかし、臨時休業時のICT利用は、社会経済的な条件と系統的に結び付いていた(第5回参照)。ここから分かるように、ICTの教育利用は「学校の頑張り」だけでなく、地域や児童生徒の社会経済的背景に一定程度左右されるのである。

 学校の判断だけではなく、教育委員会の方針も、管轄地域の社会的条件の影響を被っていた可能性がある。図は、筆者も関わる文科省の委託調査の分析結果を、プロジェクト代表者の中村高康教授(東京大学)らが報告した結果の一部である(※)。これを見ると、大卒比率が高い地域の教育委員会ほど、ICT利用を促していたことが分かる。域内の教育方針を定め、学校を支援していく立場にある教育委員会も、保護者の環境やニーズを踏まえて指示を出す傾向にあったことがうかがえる。

 ここから読み取れることは何か。「学びを止めない」ことを最優先するならば、目の前の児童生徒や保護者の客観的状況への配慮が自然と生じるのは当然である。こうして「横並びではなくできるところから」を促していくと、初期条件の有利不利に対する配慮を通じて、社会全体としては意図せざる不平等を生んでしまう。

 自治体や学校のICT導入の進み具合の差は、教員や学校の「頑張り」だけに還元できない。だとすれば、この問題に対して公教育は一体どのような役割を果たしていくべきなのだろうか。

※中村高康・松岡亮二・苅谷剛彦、「コロナ休校時における教育委員会の 対応:地域差と階層差に注目して」中央教育審議会初等中等教育分科会(第131回)資料6、2021年7月8日

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