【ICTと教育格差(7)】コロナ禍での教育現場の多忙化

多喜弘文 法政大学社会学部准教授

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 新学習指導要領は、小学校で2020年度、中学校で2021年度、高校で2022年度実施となっている。感染症の拡大は、まさにこのタイミングと重なっていた。

小学校が抱えていた問題の時点間変化(1~4点,課題認識しているほど高得点) (文科省の委託調査の分析結果※の一部をもとに筆者作成)

 なぜ、近々必要となるにもかかわらず、教育現場はICTを用いた学びへと速やかに移行できなかったのだろうか。この疑問に対する一つの答えは、すでに議論した通り、ICTの教育利用が完全在宅でのオンライン授業を想定するようなものではなかったことだろう。

 これに加え、今回は2020年度に小中学校が置かれた状況を、臨時休業以降にも時間軸を延ばしつつ確認したい。図は中村高康教授(東京大学)を中心とするグループが、小中学校それぞれ約3000校に実施した委託調査の結果の一部である。棒グラフの高さは、「臨時休業中」「再開直後」「2021年1月」の3時点について、学校が課題として認識していた度合いを表している(1~4点)。

 図からは、2020年度の学校が、時期ごとに異なる状況に置かれていたことを読み取れる。臨時休業時に課題として認識されていたのは、教職員と児童生徒や保護者の間、あるいは児童生徒同士の意思疎通が難しくなっていることであった。こうした課題は、学校が再開されて大幅に改善している。

 他方、学校再開後に深刻化したのが、教職員の労働時間や業務量である。学校現場は明らかに多忙化している。一方では、感染症対策などの業務を求められ、他方では例年より少なくなった残りの授業日数で、予定通りの内容を扱うことが目指された。ほとんどの自治体で、夏季休業が大幅に短縮されている。

 残された授業日数を見据えつつ、予定外のICT対応を「できるところから」行おうとすれば、そこに通う児童生徒の家庭背景やニーズによって実施可能性に差が生じる。もちろん、個別に見ていけば不利な条件をはね返した学校や地域の事例は多々あるだろうが、「平均的」に見れば、これが2020年度に生じていたICT化の格差だったのではないだろうか。

 さて、ここまで議論してきたのは2020年度の話である。2021年度は、これまで全国一斉の臨時休業は生じていないし、ICTを取り巻く状況も大幅に改善している。環境が整っていけば、後は学校の「頑張り次第」と言ってもよいのだろうか。残りの回は、ハードが整備されても残るであろう格差への懸念をデータで示しつつ、行政による支援の必要性と方法を議論していきたい。

※多喜弘文・中村高康・香川めい・松岡亮二・相澤真一・有海拓巳・苅谷剛彦、2021、「コロナ禍のもとで学校が直面した課題ー文科省委託調査の概要と小中学校調査の基礎分析」『理論と方法』36(2)(近刊)より。ただし、この連載での解釈の責任は全て筆者にある。

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