いじめから子どもの命を救う 2

ではどうしたらよいのか いじめ対策の「極意」

いじめ対策はさまざまにあろうが、その要、いわば「極意」について、森田洋司鳴門教育大学特任教授に聞いた。

t20160121森田先生森田特任教授は、文科省のいじめ防止対策協議会の座長を務め、長年、いじめ対策に携わってきた。同省のいじめ調査によると、平成26年度の認知件数は、全学校種で前年度よりも増加して18万8057件となった。解決や早期発見事案が増えてきている結果だ。だが、いじめが原因で不登校になったなどの「重大事態」は450件もあった。昨年は、岩手県矢巾町や名古屋市でいじめを苦に自ら命を絶った子どもたちもいた。

――「いじめ防止対策推進法」制定前後の状況を、どう受け止めますか。

同法が制定され、いじめの定義について、軽微なものまでを含めて広く捉える方向性を出している。制定前に比べれば認知率が上がってきている。だが、文科省は昨年8月に、いじめの再調査を実施した。これは、昨年7月に起きた岩手県矢巾町中2自殺事案が再調査前の数値に入っていなかったほか、都道府県間の1千人あたりの認知件数の差が約90倍だったことが原因だ。再調査で認知率の向上と、都道府県の差が徐々に縮まりつつある。教員の感性がそちらに向いてきたともいえる。いじめ対策の基本は気付きだ。それがなければ対応はできない。

■教員同士の協力が重要

――いじめ対策に必要な対策は。

いじめ対応の一番重要な部分は、表面的な行動や言葉だけでなく、精神的な辛さにどう向き合うかである。その人の良さや人間としての尊厳をいかに大事にするかが基本。今までは、いじめ対応が教員個人の力量や裁量に委ねられていた。研修も同様だ。大事ではあるが、心の中の事実をくみ取り、いじめが起きた状況を変えていくのは、ひとりでは無理である。

いじめ防止対策推進法では、いじめ防止対策のために組織を必ず設けるよう明記している。複数の教員でいじめに向き合わなければならない。教員同士で能力を補い合いながら、おかしいなと誰かが気付いたら、組織的な対応をとるのがこの法律の大きな特徴である。組織が形骸化していた場合は、いじめの兆候を見逃したり、組織的な対応ができていなかったりと、未然に防げない。こうした学校では、名古屋中1自殺や岩手県矢巾町中2自殺といった事案が再び起こる可能性が高い。

■いじめには「気付き」で

――26年度のいじめ調査では、認知件数が上がっています。

認知率は上がっていかないといけない。昨年の財務省の提言もそうだが、「教員を増員しても、いじめが減ってないのではないか」との指摘があるが、これは誤解から発している。認知件数と発生件数は違う。発生件数はいじめそのものが発生した数。認知件数は気付きの数。解決したもの、解決に向かっている事案も含まれる。

見えにくい構造をしているいじめに気付くには、先生方の並々ならぬ努力が必要だ。社会や地域の人たちも認知率の上昇について理解してもらわないといけない。認知率が上昇している学校は、教員や地域、家庭の感性が上がっている。つまり、いじめに向き合おうとする教育力と気付きの力が高まってきた証だと思う。

■現実と認知件数の差

――都道府県間の認知件数の差については。

国立教育政策研究所は平成22年から24年までの3年間、小学校4年生から6年生、中学校1年生から中学校3年生までに、いじめ追跡調査を行った。この結果をみると7~8割の児童生徒が、被害や加害の経験があることが分かっている。

文科省が実施した26年度の調査では、都道府県間での認知件数の差が縮まりつつあるものの、最も多い京都府の85.4件から最も少ない佐賀県の2.8件まで、約30倍の差がある。いまだに認知件数がゼロの学校も4割以上ある。子どもたちの現実と認知件数との差をどう埋めていくかが、あらためて浮き彫りになった。

■「チーム学校」がカギ

――国の施策については。

文科省の28年度予算案では、スクールカウンセラー(SC)を全国の公立中学校に配置する。さらに、このうちの200校には週5日(月~金)相談体制を整えるなどの予算を組んでいる。また中学校だけでなく、その域内の小学校にもSCを派遣する。その数は2500校で、昨年度に比べると2200校増である。福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカー(SSW)も増員する。昨年の中教審では、法律でSCとSSWを教職員と同等と位置付け、国庫負担にするとの答申が出ている。まさしく「チーム学校」としての取り組みが実現しようとしている。ぜひとも進めてもらいたい。

■OJTからOJLに転換

――いじめを未然に防ぐ、または早期発見するには、教員研修の充実が必要です。

これからの研修は、OJTからOJLへと転換していかないといけない。OJL、つまり「On the Job Learning」である。OJTとしてトレーニングする人とされる人の関係でなく、一つの課題に向き合って組織として学習する形だ。互いの学び合いが基本である。これは団塊の世代が大量に退職し、多くの若手教員が採用されているのが背景にある。一言でいえば、若手を育てるミドル・リーダーが不足しているのだ。

追い打ちをかけるように、虐待や不登校、いじめなど、子どもたちの問題が複雑化・重層化している。いろいろな角度から支援してあげないといけない。それぞれの立場や経験を提供し合うことで、組織そのものが学び、成長する。そうすると、有能な教員1人が抜けても、経験は共有されているので、複雑な問題にも対応できる。

■ビジョンをもって

――教員に向けて一言。

いじめの問題は、日常生活の中で発生している。子どもの表情が曇っているなどの場面に遭遇したときには、「あれ! おかしいな!」との気付きの感覚をもつのが大事。教員たちが知恵を集めて対応すれば、大抵のいじめは解消していく。数十年前のデータではあるが、教員がいじめに気付いて対応したケースでは、7~8割は抑止効果が現れている。これは今も変わらない。自信と勇気をもって指導してほしい。そして、ビジョンをもってもらいたい。教員がいじめを通じて子どもたちに何を伝えたいのか。例えば、人としての尊厳を大事にするとか。大きなビジョンをもって、子どもに接してもらいたい。