負担を最も強いる 大森学芸大准教授が「答申」を分析

12月21日に出された次期学習指導要領に向けた中教審答申を、現場への負担や授業時数の観点から、大森直樹東京学芸大学准教授に分析してもらった。

子供に合った教育課程を

温かい雰囲気の教室でA先生が口を開く。「昨日の物語の続きをやろうか」。子供がしゃべる。「今日はBさんがお休みだよ。昨日の物語はBさんが来てからやろうよ」。子供たちが求めていることと教育の内容。両者が合致した教室の風景だ。

近未来の教室の風景も描いてみたい。いかにも有能にみえるC先生の教室には「深い思考力」という目標が掲げられている。全ての教科で「深い思考力」を目指して、一人ひとりの達成度の評価も怠らない。子供がつぶやく。「今日もまた、深く考えなければいけないんだよね」。

中教審答申による教育課程プランは、後者のような教室の風景を全国に広げていくことになりはしないだろうか。

現場には負担の大きい教育課程プランだ。これからの社会で必要な力を育てるため、次のことを同時に行おうとしている。

第一は、教科と内容の増設だ。2018年度から先行する道徳の教科化に加え、高学年の英語を教科化し、プログラミング教育を必修化している。

第二は、教育課程の力点を資質・能力の育成に特化させることだ。そのために次の断定をしている。

①求められている資質・能力は、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の「三つの柱」に集約できること。

②「三つの柱」は第一次安倍政権下で07年に学校教育法に盛られた教育目標の三要素とも共通していること。

③「三つの柱」を追求するため、全ての教科ほかの目標・内容・評価を改めなければならないことだ。

第三はアクティブ・ラーニングの視点から「主体的・対話的で深い学び」を求めることだ。これだけのことを目指すには、教える内容を絞ることが欠かせないが、5月、馳浩文科相(当時)は「内容の削減を行うことはしない」と言い切っている。

このままだと学校はどうなるか。

まず、既存の教育課程の大幅なつくり直しが始まる。特に目標と評価はすべて書き換えなければならない。目標と評価が最優先される企業のような学校となる。

小学校高学年の週授業時数は現行から1時間増えて29時間となるが、これは5日制導入前の1989年の指導要領のときと同じ時数だ。5日でこなすと1日平均、5.8時間になる。「三つの柱」に埋め尽くされた息つく間もない授業の連続になりかねない。

授業時数については歴史的な考察も必要だ(授業時数の変遷表=pdf)。小学校高学年の「平日1日の授業時数の変遷」を概観すると、1907年に男4.8時間、女5.2時間で始まり、1941年戦時下の5.8時間をピークとしてきた(このとき1時数は40分)。

戦後は子供の負担への配慮から、1977年に5時間になる。1998年に週5日制が導入されて5.4時間となり、子供の放課後は再び忙しくなる。現行は5.6時間になり、「あわただしい」「つかれる」という声ばかりを聞く。これを戦時下と同じ5.8時間まで増やしてしまう。日本教育史上最も子供に負担を強いるものだ。弾力的運用で対処できる水準を超えてしまっている。

今次の教育課程プランについては、再考が行われることが望ましい。

それでも、現場の声が国には届かず、今次の教育課程プランが導入されてしまうかもしれない。今次の教育課程プランの下でも、子供の生活を大切にした教育課程を実現するためのやり方を見つけなければならないだろう。

打開策を一言で述べたい。教職員の仕事の力点を、子供と遊ぶことと内容(教材)研究の2点に絞り切ることだ。

目標と評価はむやみに肥大化させない。いちばん大切なのは何かを子供から教わりながら、教材の工夫を重ねて授業をつくれば、もっと自然に深い学びを実現できる。

教育実践の歴史の事実が、それを証明している。

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