無償化より待機児童解消を 市民団体が政府に意見書

政府が掲げる3~5歳の幼児教育無償化について、市民グループ「保育園を考える親の会」はこのほど、待機児童の増加を招き、保育の質低下につながる恐れがあるとして、待機児童解消を優先するよう求める意見書を厚労省と内閣府に提出した。

同会の普光院亜紀代表は「全ての子供に教育の機会を提供するのが本来の目的。無償化して逆に待機児童数が増加すれば、問題解決に逆行する」と主張している。

また、保育料はすでに所得に応じた応能負担となっており、待機児童を解消するためには、保育士の待遇改善を含め、保育の質と量を向上させていく必要があるとして、子供のために大きな財源が確保されたことを評価しつつも、「保育士の待遇改善や質の向上に使うべき」としている。

さらに同代表は「自治体の負担も心配だ。各自治体ともかなり努力していると思うが、さらに負担がかかれば現場が混乱するかもしれない」と指摘した。

横浜市が待機児童の定義を変え、育児休暇中でも保護者に復職の意思がある場合は待機児童に含めて数えたところ、全体の98%を0~2歳児が占めた。

こうした実情を踏まえ、同代表は「3~5歳の幼児教育を無償化しても待機児童は解消されない。悩んでいる親たちは保育の質が下がる無償化に反対だ」と強調した。

意見書の内容は次の通り(原文ママ)。

■緊急の意見表明

待機児童対策を滞らせるような「幼児教育の無償化」は、すべての子どもの育ちを支えるという本来のねらいとは逆の効果をもたらす恐れがあります。まずは、保育の量と質の確保を着実に行うことを求めます。

■待機児童ゼロはさらに遠い目標に

2013年からの「待機児童解消加速化プラン」は目標の受け入れ枠を確保したにもかかわらず、待機児童ゼロを達成できませんでした。この間、2015年の子ども・子育て支援新制度のアナウンスが保育ニーズを大きく増加させています。そして、今回の「無償化」のアナウンスは、さらに多くの保育ニーズを呼び起こすことになります。今このときに、急激なニーズ増を助長することは、切実に保育園を必要としている家庭を、さらに窮地に陥れる懸念があります。

多くの自治体が、積極的な待機児童対策を講じながらも急激なニーズ増にあえいでいます。その現状をさらに悪化させるような政策を、今、実施することについては十分に慎重であるべきです。

すでに多くの人々が訴えているように、まずは待機児童対策に注力すべきと考えます。

■運営費(公定価格)の切り下げは待機児童対策を滞らせ、保育の質を低下させます

「幼児教育の無償化」の財源確保に関連して、保育所等の認可の保育施設の運営費(公定価格)を切り下げる検討が行われていますが、これは保育士の待遇改善を妨げ、保育所等の施設整備の余力を奪い、待機児童対策を滞らせるものにほかなりません。

保育士不足のために定員どおりの園児募集ができない保育施設も現れており、保育士の待遇改善問題は瀬戸際にきています。保育士人材の枯渇は、保育の質にも深刻な影響を与えています。

■「幼児教育の無償化」の政策的効果はマイナス

1962年にアメリカの貧困地域で始められたペリー・プリスクールの社会実験を分析した経済学者ヘックマン教授は、幼児教育への投資は、国家にとって最も費用対効果の大きい教育投資であると述べました。しかし、現在の日本でのこのような「無償化」は、本来のねらいとは逆の効果をもつ恐れがあります。

「幼児教育の無償化」の本来のねらいは、貧困など不利な立場にいる子どもが質の高い幼児教育を受けられるようにすることで、子どもにとっての機会の平等を実現できる点、「国益」の観点からは、次世代の健やかな成長を促し、将来の税収を増加させ、福祉や治安のためのコストを低減できる点にあるとされています。

実は、その機能は、すでに現行の認可保育所等の保育料が応能負担(所得に応じた負担)となっていることで、制度的には実現しています。しかし、認可保育所等の数が足りないために、不利な立場にいる子どもがその利益を受けられていません。つまり、「幼児教育の無償化」の観点から今いちばん求められているのは、認可保育所等の保育を必要とするすべての子どもに行き渡らせること、つまり待機児童対策であるはずです。

さらに、すでに幼児の就園率が高い(5歳児で96%)日本では、3歳以上児を中心とした無償化策の効果はほとんど期待できません。ここに財源を傾け、切実に求められている0~2歳の保育の量・質の確保が遅れるようなことは避けなくてはなりません。無償化により、中高所得層はその余剰分を教育への支出に回すため、教育支出の格差を広げる可能性も指摘されています。

■質を確保しない無償化は子どもを苦しめる

前述の子どもの機会の平等や、将来の「国益」を実現できるのは、「質の高い幼児教育」であり、「質の低い幼児教育」は逆効果をもたらす恐れがあります。特に、子どもが長い時間を過ごす保育園の人的・物的環境は、子どもの成長発達を左右するものです(注6)。保育士の人材確保も含めた質の改善は、今すぐ実施する必要があります。

認可外保育施設も「無償化」の対象にするという方向性が示されていますが、そうなるのであれば、対象施設には基準の厳守を求め、保育料収入の使途も含めた運営への指導監督を徹底するなど、質の確保策とセットにする必要があります(基準は最低でも小規模保育の基準相当とし、できるかぎり子どもが不適切な環境に誘導されることのないように配慮すべきです)。なお現在、認可外保育施設の認可化が進んでおり、質の向上が期待されていますが、「無償化」が認可化に水をさす懸念もあります。

■結論

子どものために大きな財源が確保されたことは素晴らしいことです。しかし、それはまず保育の量と質の確保に投入していただきたいと思います。

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