明確なビジョンと組織の共通理解で「横帯をつなぐ」英語教育を実現

2017年は、学校の働き方改革の議論が本格化し、12月には中教審の中間まとめが出された。18年は、その実行も加速するとみられる。長時間勤務と多忙感の解消に、学校現場はどう取り組むか。その考え方と、部活動対策やチーム学校の先行実践事例に注目した。
〈特集 学校の働き方改革2018(1)〉
多摩市立和田中学校

打ち解けた様子で会話するイェンさんと生徒
打ち解けた様子で会話するイェンさんと生徒

「チームとしての学校」の在り方が求められて久しい。多様な人材がそれぞれの専門性を生かし連携・協働する体制は、子供たちの豊かな学びを実現するだけでなく、教職員の多忙感解消も期待されている。

しかし実態はどうか。専門性の高い人材をどうやって見つけるか、地域や保護者の理解や協力を得られているか、方向性を一にしたマネジメントが実践できているか。こうした課題から協働体制がうまく機能せず、むしろ以前よりも教職員の負担が増してはいないか。全小・中学校でESDを推進し、地・産・学・官との連携を深めながら「チーム学校」体制を推進している東京都多摩市の取り組みを追った。

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にぎやかな給食の時間、生徒たちの中に、英語で語らう一隅があった。最近の授業内容について話す女子生徒に相づちを打つのは、中国出身の留学生イェンさん。イェンさんと生徒たちのやり取りを担任は干渉しない。英語で会話を続ける二人の姿は、3年2組の日常に溶け込んでいた。

多摩市立和田中学校(福田洋一校長、生徒数391人)では、昼休みを利用した留学生との交流プログラム「昼プロジェクト」を2016年6月から継続している。留学生には、給食時間をその日担当する教室で過ごし、生徒たちと英語で会話するというルール以外、何の制約も設けていない。給食後の昼休み15分間は、教室に残って生徒たちとおしゃべりの続きをしたり、廊下で他のクラスの生徒と話をしたり、どう動くかは彼らに委ねている。

■「オリンピックの街角」を想定

「なるべく自然な形で、『オリンピック開催時の街角』をつくり出すため」と、福田校長はその意図を語る。「当校ではオリパラ教育の視点で、日本を訪れる外国人の方々に、自ら進んで道案内できる子供を育成しようという目標を掲げている。読み書きはできても、『話す』ことに抵抗感を持つ生徒は少なくない。自分から積極的に話し掛け、関わっていくには慣れが重要。日常的に生徒全員を留学生と接する環境に置き、その継続性の中に英語の習得があると考えている」。

近隣の中央大学から訪れる留学生の母国は、中国、ドイツ、フランス、米国など多彩で、彼らの来校は年間180回に上る。体育祭と合唱コンクール前を除き、ほぼ毎日2人の留学生がどこかの教室にいる状態という。スタート当初こそ、話し掛けられても緊張して黙ってしまう生徒が多かったが、2年目を迎えた3年生たちは語彙ごいも増え、言葉を交わす余裕が出てきた。

また、家庭科部の生徒が留学生を見つけやすくするために刺しゅうを施したベストを作ったり、茶道部の生徒が「おもてなし」をしたりと、交流を通して生徒たちに主体的な動きも生まれている。

■多彩な取り組み

国際理解教育をESDの柱とする同校では昼プロジェクトの他、地域未来塾の一環として、火・木の早朝に地域の指導員による英検対策の学習教室を実施。また放課後には、ネーティブと回線をつなぎ、生徒に英会話レッスンを行う取り組みも行っている。昨年11月、多摩市とベネッセの連携事業として、2年生を対象にオンライン英会話授業を実施したが、1回のオンライン授業をより質の高いものにするためにも、地域や大学と連携した朝・昼・放課後のプロジェクトが有効に作用しているという。

「市が推奨する取り組みを単発で終わらせるのではなく、学校がいかに横帯をつないでいくか。限られたコストの中でも、アイデア次第で、できることはあるはず」と同校長は語る。

■「構想と組織」が鍵

こうした「チーム学校」体制の鍵を握るのが構想と組織だ。同校では16年2月、地域支援本部の立ち上げに当たり、最終的な目的を「国際社会で活躍できる人材の育成」に定め、その具体として「オリンピックの道案内」を示した。何を目指すのか明確にした上で、校内と地域支援本部の共通理解を図り、達成に必要な手立てやコーディネーターの人選を検討。

目標への基盤を築いた後は、副校長が大学の留学生事務局、地域支援本部が専門性を持った地域人材に協力を要請、継続的なプロジェクトの実現に至った。

また、以前に昼プロジェクトに参加し、現在は帰国した留学生によるオンライン英会話レッスン(放課後プロジェクト)の計画など、一つのプロジェクトが別のプロジェクトに発展するケースも出てきている。

同時進行でさまざまな取り組みを行いながらも、教員は仕掛けづくりに徹しているため、負担は増えていないという。また、特色ある学校にしようという姿勢は保護者からも高く評価されており、応援の声が寄せられている。

同校長は「教員の負担軽減や保護者の評価を期待して『チーム学校』を進めてきたわけではないが、結果的に教員の働きやすさや、スムーズな学校運営につながっている」と語る。


市全体で支援ネットワークを
n6働き方特集1 山本武東京都多摩市教育委員会参事 山本 武

各校における「チーム学校」の状況と市の支援体制について、東京都多摩市教育委員会の山本武参事に聞いた。

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ある学校では「自分たちの住む町がどうすれば活性化するか」を子供たちで考え、ベンチをきれいにするなど、人が集まる仕組みづくりを地域の商店街と連携して行っている。消防団の協力の下、防災教育を実施したり、茶道や和楽器の演奏など専門家を招き、伝統文化を学ぶ学校もある。中学校の部活動においては、国士舘大学(多摩キャンパス)に協力を仰いで、部活動の指導支援や専門家による講習会も行っている。同じ市内の学校でも、周辺の環境や児童生徒の成長度合いは異なり、できることも違ってくるので、各学校にとって必要な取り組みを見いだし、地域や大学の力を借りながら実践している。

新学習指導要領は、これまで以上に子供たちの資質能力を輝かせるような育成を求める内容となっていて、全てを教員が担おうとすれば当然負担も増える。学力面においては、昨年からスタートした地域未来塾を軸に取り組んでほしい。現在は6校が、基礎学力の定着を念頭に置いて実施している。

ベネッセ(多摩市に東京本部)と協働して東京ベーシックドリル()のアプリ版を開発したり、ミライシード(タブレット学習プラットフォーム)を導入したりと、教育委員会も教員が携わらない仕掛けづくりを行っているので、放課後や長期休業中の補習などにうまく組み込んで活用してくれればと考えている。

重要なのは、育てたい児童生徒像と、そのために必要な支援について、校長が明確なビジョンを持ち、メッセージとして強く発信すること。教育委員会ではコンソーシアムを組織して、各団体とのミーティングの機会を設けているので、目指す方向性が分かれば、連携可能な団体との橋渡しができる。市内小・中学校がESDの取り組み内容を発表する「子どもみらい会議」も、他の学校がどんな取り組みを行い、学校外からどのような協力を得られるか参考になるだろう。

各方面の理解と協力を得るには、学校の状況や成果を知っていただくことも重要であり、広報紙や説明会を通じた情報発信も積極的に行っている。今後は教員の多能化や学校単体の努力を求めるのではなく、子供を成長させるために、多摩市全体で支援のネットワークをつくっていきたい。

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)小1~中1までの国・算/数、小3~小4の社会・理科、中1の英語を身に付けるために東京都が独自に導入している教材。

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