『君たちはどう生きるか』 漫画家が母校で特別授業

後輩と宿題の「答え合わせ」をする羽賀氏
後輩と宿題の「答え合わせ」をする羽賀氏

茨城県立土浦第二高校(加茂川裕昭校長、生徒数956人)で3月15日、『漫画 君たちはどう生きるか』(原作・吉野源三郎、マガジンハウス刊)を描いた漫画家の羽賀翔一氏による特別授業「今日から”考える”人になろう」が行われた。同校は同氏の母校。原作でも答えが示されていなかった、日々生み出しているものとは何か、という「宿題」について、後輩たちと話し合った。

同校の1、2年生と保護者ら約650人が参加した。特別授業には、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著、KADOKAWA刊)の「ビリギャル」のモデルとなった小林さやか氏も登壇し、『漫画 君たちはどう生きるか』の魅力や、作品に仕上げていく過程でのエピソードなどを対談。

教育実習に来て以来8年振りに同校を訪れた羽賀氏は、高校生の頃、曇った窓ガラスに教師の似顔絵を描いて過ごしていたが、まだ漫画家になろうとは思っていなかったという。国語の教員になるために母校で行った教育実習の授業では、現代詩を教材に選び、特技を生かして自作の紙芝居で詩の世界を表現し、生徒とイメージを共有する授業を試みた。教員を志す一方で、「これでいいのだろうか」という思いが日に日に大きくなっていった。やがて、「やってみよう」と思い立ち、大学4年生で初めて描いた漫画作品「インチキ君」が、「第27回MANGA OPEN奨励賞」を受賞、大学の卒業も間近となった頃だった。

小林氏は「勉強はやった分だけ偏差値は上がる。漫画家で上位に行くのは難しい。漫画家を目指すのは、すごく勇気がいると思う」と質問。羽賀氏は「人と比べて、自分がどの位置にあるかというのを考えていては、幸せになれないのではないか」と答えた。

しかし、いざ漫画家としてデビューしたものの、連載を経て単行本となった『ケシゴムライフ』では、書店からの大量の返品を自ら受け取るという経験もした。「漫画家としてどう生きるか」という壁にぶつかっていたとき、出会った仕事が『君たちはどう生きるか』の漫画化だった。原作には「どう生きるか」の答えのようなものはどこにも書かれていない。ノウハウではなく、考え続ける姿勢が示されていると感じたという。

同氏は特別授業にあたって、「あなたが日々生み出しているものとは」という宿題を生徒たちに出した。『漫画 君たちはどう生きるか』の中では、貧しい家庭で懸命に暮らす同級生に刺激を受けたというコペル君の話を聞いたおじさんが、「君はある大きなものを日々生み出している。それはなんだと思う?」とコペル君に問い掛ける場面がある。

同校演劇部による、そのシーンを再現した寸劇を挟み、生徒と羽賀氏、小林氏の対話が始まった。

ある生徒は「日々感じたり、生まれたりする疑問だと思う」と話すと、羽賀氏は「漫画も、編集者と一緒に作っていく。どんなに自分の表現が正しいと思っていても、一度、編集者の指摘を受け入れて、しっかり向き合わないと、本当にいい作品にはならない。客観的に捉えられる素直さはとても大切だ」と話した。また、同氏は「コペル君が生み出しているのは、おじさんの意思なのではないか。他人を動かす意思だ」と、自身の考えを提示した。

1937年に吉野源三郎によって書かれた原作を漫画にした同書は、母方の叔父である「おじさん」から、コペル君と呼ばれるようになった中学生が、おじさんとの対話や、ノートによるやり取りをしながら、身の周りで起こるさまざまな問題に目を向け、友人関係やものの見方などを学び、成長していく物語。現在、200万部を超える記録的なベストセラーとなっている。