新たな課題や不安も 通級指導の実施予定調査から

自己理解力の向上を図るカードゲーム(北海道大樹高等学校)
自己理解力の向上を図るカードゲーム(北海道大樹高等学校)

文科省は4月6日、「高等学校等における通級による指導の実施予定状況に関する調査結果」を発表した。北海道や兵庫県などのように、通級指導教室の設置数が多い自治体もあれば、設置数が未定であったり、来年度以降に実施予定だったりする自治体もある。記者はこの春まで東京都教育庁において指導主事を務めており、高校における通級による指導について、実施校の視察や県教委などからの聞き取り、制度化に向けた調査を行った。そうした中で見えてきたのは、通級指導が、生徒の成長や教員の指導力向上、校内体制の強化などにつながる一方で、課題も多いという現状だ。学校経営上の新たな課題が生まれたり、教員や保護者などから学校の変容を危惧する声が上がっていたり、という実態が浮き彫りとなってきた。(教育新聞編集部 小松亜由子)

例えば、同省のモデル事業指定校の一つでは、発達障害のある生徒が一定数在籍していることから通級を導入したが、導入発表後、発達障害と診断された生徒がそれまで以上に多く入学し、個々のケースに応じた学習・生活上の指導が一層求められることとなった。しかし、同校の教員数では十分な対応をすることが難しい。今年度からは通級指導教室の設置を見送ることとなった。

同じく指定を受けた別の学校では、全日制普通科として「当たり前の学校で何ができるか」というテーマで通級指導に取り組んだ。専門性を有する教員がいないため、他県の先進校を視察しながら1年かけて準備を進め、15年度から通級指導をスタートさせた。生徒たちは当初、無断で通級指導を休んだりして、教員との対話もなかなか進まなかった。ようやく成果が現れ出したのは2年が経過してから。対象生徒が友人との関係をうまく構築できるようになり、自発的に勉強に取り組むようにもなった。その学校も今は通級指導を行わない。「通級指導をしながら、普通高校であり続けることは困難」と副校長は話す。

また、今年度から通級を新たに設置する学校では、中学生向けの説明会などで通級に関する説明をしてから、発達障害のある生徒やその保護者から数多くの問い合わせが寄せられた。その結果、教員らが「学校が崩壊してしまうのでは」と不安視するようになってしまった。校長は教員数の増加などの対応を各方面に訴えるとともに、教員、保護者、在校生の共通理解を図るため、「本校は高校と特別支援学校の狭間にある学校である」と宣言しているが、先の見通しが良いとは言えず、不安を抱えたままのスタートとなっている。

一方で、さまざまな課題を少しずつ解決し、手探りしながら前進している事例もある。

北海道大樹高等学校では、モデル事業指定を受けたものの、特別支援の経験がある教員がいないという課題があった。そこで、高等支援学校などでの勤務を経験している教員を新たに配置し、通級指導担当とした。通級指導に対する教員間での共通理解を図るため、通級指導には担当のほかにもう一人、輪番制で教員を配置し、共に指導に当たることとした。対象生徒が抱える困難に応じて、自己理解力の向上を図るカードゲームを用いた指導や、タブレット端末を活用した学習支援、バドミントンやウォーキングを行い楽しみながら運動能力を向上させる活動などを行った。

中には、カードゲームなどのコミュニケーションに関わる活動を「幼稚」と捉え、「どうしてこんなことをしないといけないのか」と拒む生徒もいた。この生徒は学習支援を必要としているだけではなく、自己理解力の低さなどから、人間関係作りにも課題があった。しかし、そのことに対する理解は深まらず、コミュニケーション指導は徐々に減り、学習支援を主として行うようになっている。「高校生なので、本人の同意が得られないと指導は難しい。取り組みをどのように促すか、説明の仕方を個別に工夫していく必要がある」と担当の日光梓教諭は語る。

千葉県では、多くの自治体が学習到達度の低い生徒の多い学校をモデル事業に指定する中で、県内でも人気がある2つの進学校に設置することとした。高校における特別支援教育の充実は、今後全ての高等学校において必要になるという考えに基づき、研究の成果がより広く浸透するようにという狙いがあったためである。当初は肢体不自由のある生徒を対象にしたが、これも周知のための工夫である。まずは障害に起因する困難が比較的分かりやすい生徒を対象とすることで、特別支援教育や自立活動に対する理解を進めやすくしようとした。

指定された学校はこれまでに複数の国会議員を輩出するなど、進学校としての伝統や実績を有しており、同窓会や保護者、地域などからの反発があった。校内の教員からも「入試に合格している生徒に特別な授業をする必要があるのか」と指摘された。通級指導を受けてほしい生徒がいても、「困っていない」などと断られることもあった。県教委が高校の通級指導に関するリーフレットを今年2月に作成して県内公立中・高の教員に配布したり、学校が同窓会に対して丁寧に趣旨を説明したりしたほか、障害への理解を促す講演会を生徒対象に開くとともに、保護者や地域住民を同講演会に招くなどして、多方面への理解啓発を進めている。

特別支援教育は、同じ障害名であっても特徴はさまざまで、適切な働きかけの仕方などやってみないと分からないことが多いことから、「トライ&エラー」だと言われる。高校における通級指導も、数年間は「トライ」の時期だろう。一つの「エラー」でくじけず、県を越えて互いに情報交換し合いながら、適切な仕組み作りを模索していく必要がある。