予測誤差の運動伝染を発見 トレーニングに応用も

予測誤差の有無によって被験者の動作が影響を受ける
予測誤差の有無によって被験者の動作が影響を受ける

他者の動作を予測した際に誤差が生じると、自分の動作も無意識に変わる――。そんな人間の「運動伝染」が新たに発見された。5月29日、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センターと鹿屋体育大学による共同研究で、野球部員への実験を通じて、予測誤差がある場合に被験者の運動に影響を与えていることが明らかとなった。この「運動伝染」を応用すれば、効率的な運動トレーニングにつながる可能性があるという。

スポーツを観戦しながら無意識に選手と同じような動作をしてしまうなど、他者の動作を見ていると自分の動作も無意識に影響を受ける現象を運動伝染と呼ぶ。私たちは日常的に他者の動作を予測しているが、しばしば他者が予測と異なる動作をする場合がある。このような予測誤差が起こったときの運動伝染について、池上剛同センター研究員と中本浩輝同大准教授らのグループは、大学の野球部員を対象に比較対照実験を行った。

まず、30人の野球部員を10人ずつ三つのグループにランダムに分け、1~9までの数字が順番に書かれた正方形の的が、縦3枚、横3枚並んでいるターゲットを用意。その中心(5の的)を狙ってボールを投げる実験をした。被験者は投げた瞬間にシャッターゴーグルで視覚を遮断するため、投げたボールがどこに当たったかは分からない。

次に、三つのうち二つのグループに、ピッチャーがターゲットの右上(3の的)ばかりにボールを投げる映像を見せた。それぞれのグループには、映像を見せる前に「ピッチャーは毎回、ターゲットのさまざまな場所を狙っている」(予測誤差なし)、「ピッチャーは、毎回ターゲットの中心を狙っている」(予測誤差あり)と伝えた。残りの一つのグループには映像を見せなかった。

その後、被験者が再度、ターゲットの中心を狙ってボールを投げたところ、「予測誤差なし」では、ピッチャーが投げた位置と同じ方向に無意識にずれていったが、「予測誤差あり」では、真逆の方向にずれていった。

この実験から、他者のピッチャーが修正すべき誤差を、まるで自分の動作の誤差のように脳が処理している可能性が示唆され、予測誤差を修正する運動伝染の存在が明らかとなった。他者の動作を見る際に、予測誤差を操作すれば、対象者の動作を異なる方向へ導くことができるという。

研究成果は、神経科学の国際科学誌「eLife」のオンライン版に5月29日に掲載された。