PDCAがW杯のドロー導く 学校経営に一石、改善意欲

日本代表が「圧倒的不利」の前評判を覆して2対2で引き分けた6月25日のサッカーW杯ロシア大会の対セネガル戦。「PDCAサイクル」とそのサイクルからの脱却・超越を迫られる学校経営の在り方にも大きな一石を投じた。

PDCAサイクルは経営改善に欠かせない手法の一つとされ、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4段階を反復することで円滑な業務の改善を目指す。PDCAはその頭文字を取っている。日本の教育現場にPDCAサイクルが声高に叫ばれるようになったのは21世紀に入ってから。児童・生徒の学力低下を背景に経営マインドと競争原理の学校への導入が求められ、2007年に再開した全国学力テストをきっかけに一気に浸透した。「すべての学校にPDCAサイクルを確立する」は合言葉になった。

25日の対セネガル戦は、Planが「勝利か引き分けにより、勝ち点を狙う」で、Doが「攻守のバランスを取りながら全員攻撃、全員守備」だった。 Checkは前半11分の失点で狂った。キーパー川島永嗣選手の痛恨のミスだった。では試合中に Doをどう評価するか――。日本イレブンが勝機につなげるために下した評価は「ケアレスミス。出合い頭の事故」と捉えるポジティブ評価だった。Actは「個の力でセネガルに劣っていても組織力は日本が断然上回っていることの再確認、ケアレスミス撲滅」だった。

前半におけるPDCAサイクル循環が後半に生きる。ケアレスミスがなくなった。個人のミスを仲間がカバーする。後半のPDCAサイクルがぐるぐる回り始める。後半26分、再びセネガルにリードを許す。得意のパスサッカーが封じ込められたわけではない。再度のポジティブ評価で日本イレブンが奮起する。途中出場の切り札、本田圭佑選手のゴールでまたもや追い付いた。西野朗監督は試合後の記者会見で「タフなゲームになった。守備的な選手を入れて引き分けを狙う選択肢もあったが、勝ちにいきたかった」と振り返り、「先制されたが、その後落ち着いて、狙っていた中盤の選手を中心としたパスによる組み立てができた。粘り強く戦えた」と全体を評価した。

勝利に限りなく近い引き分けと考えるのは西野監督ばかりではなかった。イレブンたちの評価はどれもポジティブだ。「得意の形でゴールを決めることができた。思い切って打った結果だ」(乾貴士選手)、「すごくよいボールが来て、決められなければ負けるかもしれない場面だった。決めることができてよかった。チームとしても前のコロンビア戦よりもよい戦いができた」(本田選手)、「よく最後追い付いた。勝ち点1を取れたことは今後につながる。前の試合から改善できることはできた。次に向けての時間はないが、勝ち切るために修正したい」(香川真司選手)、「先制されたのは、自分(ゴールキーパー)のミスで目の前が気になり失点を許してしまった。チーム一丸となって厳しい中でも結果を出すことができた。次の試合は、結果が大事。自分もしっかり修正して臨みたい」(川島選手)、「無失点を目指していた。2失点してしまい、得点してくれたフォワードに感謝したい。本当は、勝ち点3を取って決勝トーナメント進出を決めたかったが、個の能力が優れた相手に対してよく2回も追いついたとポジティブにとらえたい」(吉田麻也選手)

引き分け試合を受けて兜(かぶと)の緒をさらに締め、PDCAサイクルに励むイレブンの姿。子供の学力向上に手応えを十分感じ、地域ぐるみでPDCAサイクルを継続する教師の姿。この二つは重なり合う。とはいえ、PDCAサイクルは万能ではなく、その限界が厳しく指摘されている。環境や状況が激変したり、目まぐるしく変わったりする場合は立てた計画が形骸化し、絵に描いた餅になるからだ。さらに過去の経験に基づいて問題を解釈し、都合のいい解決法を探ろうとする面があるからだ。

過去の成功体験が未来の芽を摘む危険性がここにある。では日本イレブンはどうするべきか。西野監督はどんな手が打てるか。それは脱PDCAサイクル、超PDCAサイクルの色彩を帯びざるを得ない。28日に1次リーグ突破をかけて戦うポーランドは、事前の予想に反してリーグ敗退が決まった。日本が時間をかけて練った対ポーランド戦のプランは役に立たない。選手一人一人が持てる力を全部発揮し、チーム力を爆発させるPlanと Doは、教師一人一人が最大の力を見せ、チーム学校の力を出し切るPlanと Doに通じる。鍵を握るのは改善意欲以外にない。不断の改善意欲こそが選手の、そして教師の、俊敏性、柔軟性、堅牢(けんろう)性を際立たせる。(編集委員・谷俊宏)