人間と学校を荒廃させる 悪夢の文科省汚職事件

「公正」が確保されなければならない教育行政と大学入試が、「事務次官候補」とまでいわれた文科省現役幹部の私利私欲で損なわれてしまった。行政はかつても、いまも、この先もずっと公正でなければならない。情実、ひいき、談合、汚職がはびこれば、活力と競争力が失われ、人間も学校も社会も国も、一気に荒廃するからである。

荒廃の元凶が「グローバル人材育成」に本気で取り組む文科省に潜んでいたとは、決して見たくない悪夢であった。天下りと学校法人「加計学園」の問題で文科省はすでに信頼を失っていたからである。

科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者(58)が東京地検特捜部に逮捕された7月4日、文科省は特捜部の家宅捜索を受けた。10年前には国立大整備事件で警視庁から家宅捜索を受けている。

さかのぼれば1988年に発覚したリクルート事件で前文部事務次官が逮捕され、やはり家宅捜索を受けた。佐野容疑者は当時、旧科学技術庁に採用されていた。他のキャリア官僚と共に、政官財界を巻き込んだ疑獄事件の捜査進展を固唾をのんで見守ったはずである。「次の逮捕者は誰か」「どこが捜索されるのか」と。佐野容疑者はその黒い人脈に連なった。

逮捕の容疑は、佐野容疑者が官房長だった昨年5月、私立大学の支援事業を巡って東京医科大学に便宜を図る見返りに、大学を受験した自分の息子を「裏口入学」させた疑いである。罪名は悪質さが際立つ受託収賄で、息子の入試の点数を大学側に加算させていたとみられている。

私利私欲の対象は財貨だけでなく、財貨を生み出すポストや学歴、実績、名誉にも向けられる。個人の欲望を満たす利益は、贈収賄の対価に当たるとみなす特捜部の考えは市民感覚に沿っている。

佐野容疑者が裁量権のある文科省の支援事業を使って息子の「裏口入学」を実現し、大学側に5年間にわたって年度ごとに数千万円の助成をすることを保証した裏取引は、悪質である。不正入学によって合格からはじかれた受験生がいる。支援事業に応募しながらも選定から漏れた大学がある。それぞれに枠が1つ減ったからである。泣いた受験生と大学がいる一方で、佐野容疑者と東京医科大学はぬれ手で粟(あわ)のつかみ取りをしていた。これが許されるはずはない。

「入学者選抜の公正確保」と題した事務次官通知で「一部の私立大学において入学者選抜の公正を疑わしめるような事態およびこれに関連して学校法人の経理の不適正処理等が発生し、大学に対する社会的な信頼を損なうような事態が生じたことは、極めて遺憾である」と文科省が注意喚起したのはいつだったか。通知には「今後、入学者選抜に関し一切の疑惑を招くことのないよう」と明記してあった。教育関係者に何とむなしく響くことか。もう通知の中身さえ思い出したくもない。

(編集委員・谷俊宏)