ありのままの生き方の支えに お茶大の決断に学ぶ

今からちょうど10年前の7月、定時制高校の教員だった頃、「先生のクラスの子がテスト中に倒れた」と知らせを受けた。教室に駆けつけると、トランスジェンダーの生徒(戸籍上は女子だが性自認は男子)が真っ赤な顔で床に横たわっていた。病院の診断は「軽い熱中症」。28度設定とはいえクーラーの効いた室内でと不思議に思った。

保護者の迎えが来るまで話を聞くうちに、その生徒が学校で水分をほとんど摂っていないことを知った。また、その生徒はどんな猛暑日にも長袖長ズボンを着ていた。心配もあってその生徒に怒ると、倒れたショックで弱気になっていたのか、泣きながら「女じゃないから」とつぶやいた。女子トイレに行くのが嫌で水分を摂らず、筋肉のないすべすべの自分の手足を見るのが嫌でいつも長袖長ズボンなのだと話した。その生徒が自らを男子と思っていることを、そのとき初めて知った。

保護者に引き渡した後、学校に戻って学年主任や管理職に相談したが、返答はいずれも「半袖を着て、手足は見ないようにすればいい」「女子トイレは個室なのだから気にしなければいい」。私もそれ以上に戦うことをせず、「彼」は程なく通信制高校に転学してしまった。

「教師に悪人はいないが、鈍感な人は多い」。『教師修業十年』での向山洋一氏の言葉だ。心当たりのある教員は少なくないだろう。私は生徒を大切に思っていたがあまりに鈍く、知識も配慮も欠けていた。無意識に「彼」の言葉遣いや振る舞いを「女の子なんだから」と注意したこともあったと思う。

性的マイノリティーについて2015年に電通総研が行った調査では、日本人の7.6%が当てはまるという結果になった。17年に三重県が行った調査では、アンケートに答えた生徒の約1割が当てはまると回答している。30人学級であれば、2~3人が性的マイノリティーと考えていいだろう。

お茶の水女子大は7月10日、トランスジェンダーの学生の入学を認めると発表。記者会見では「嫌がる女子もいるのでは」「悪意をもって偽る男子をどう防ぐか」といった質問が相次いだ。さまざまな課題が予想される中、お茶大が決定を下したことは英断と言える。

しかしこれは大学に限らない。小・中・高など、どの校種でも今後ますます、こうした環境整備は求められる。愛知県内のある中学校は障害者用トイレに虹色のステッカーを貼って「思いやりトイレ」とし、同県内の小学校は男子用・女子用とは別に「みんなのトイレ」を設けるなど、配慮が進んでいる。

子供たちがありのままの生き方をできるよう、教員は意識して支援していく必要があるのだ。例えば高校の進路指導で、女子大を志望する男子生徒に、カミングアウトの機会を提供できるか。性自認に合った進路希望の実現に向けて、子供や保護者を十分にサポートできるか。全ては子供たちと日々関わる教員にかかっている。

向山氏はまた、「『子供に教える』という神様にしか許されない仕事をしている私たちは、神の前に報告するような謙虚な気持ちで仕事を振り返るべき」と述べた。

子供たちを知らず知らずのうちに傷つけないよう、常に自らの言動を振り返りながら、伝統や慣習にとらわれず、お茶大のように勇気ある一歩を踏み出すことが、より多くの子供たちを自分らしい生き方に導く鍵となるであろう。(小松亜由子)