価値教えない難しさ 「考え、議論する道徳」で提案授業

登場人物を自分に置き換えて考え、発表する児童ら

「深く本質を追求する発問とは」などをテーマに、道徳教育について研究を重ねてきた筑波大学附属小学校(甲斐雄一郎校長、児童数896人)でこのほど、「考え、議論する道徳シンポジウム」の一環として提案授業が行われた。問題解決的な学習を通じて、正直に元気よく生活する態度を養うねらい。「考え、議論する道徳」の難しさと、「価値を教えない授業をいかに展開するか」といった課題を参加者が話し合った。

授業者は、同校の山田誠教諭。「日常生活で起こりうる問題を解決する力を伸ばすとともに、逆の立場で考えることで多面的・多角的な思考力を養う」を研究テーマに掲げ、「正直に生きる(正直、誠実)」を題材として4年生24人に授業を行った。

同教諭はまず、NHKの道徳教育番組「時々迷々」を再生。歌手を目指す主人公が歌番組のオーディションを理由にクラス合唱の練習をサボり、一次審査で落ちたが「二次に進んだ」とうそをついてしまうストーリー。途中には主人公のうそを信じたクラスメートが、主人公の健闘を願って全員で歌う場面もある。視聴後、「もし自分だったら『本当はオーディションに落ちていた』と言えるか」を児童らに考えさせた。

黒板には「絶対言う」から「絶対言わない」まで、「本当のことを言う」という思いの強さに応じて六つの欄が設けられ、児童は自身の名札を貼って考えを明らかにした。もっとも多かったのは3番目の「あまり気は進まないが言う」の10人で、6番目の「絶対言わない」とした児童も2人いた。

続いて「もしクラスメートだったら、主人公がうそをついていたことを許せるか」という問いに取り組み、クラスの大半が「許せる」とした。これらの問いを踏まえ、最後に「主人公はどうすればよかったか」について考えさせ、「うそをつくと、あとで嫌な思いをすることになる」と伝えた。

授業後に開かれた研究協議で、同教諭は「『うそをついていたと言わない』としていた児童が『うそをつかれたことを許せない』と答えるなど、逆の立場に立つことで考えが深まった」と振り返り、「正直に生きることの大切さを伝えたいと考えた」と述べた。

会場からは「『うそをついていたと言うか言わないか』は、『うそをつかれたことを許せるか許せないか』とは別の枠組みの問い。考えの深まりと単純に評価することはできないのでは」「正直であることの価値を教えているのでは」「低学年でのねらいである『読み取り』になっていないか」などの指摘が上がった。

講評で、岐阜大学大学院の柳沼良太准教授は「『うそを言わない』という結論は未就学児でも分かることで、中学年の授業のまとめには弱い。『本当のことを言うか言わないか』の択一ではなく、『将来に向かって話し合う』など、いろいろなアプローチが可能だった」とし、「考え、議論する道徳」では自分と違う意見や立場を理解して考えを見直すこと、また、道徳的価値の実現がいかに難しいかを考えることが重要だと強調した。