怒鳴られ、傷付いた遺族 男子高校生自死の提訴理由

「裁判では遺族の気持ちをまず知ってもらいたい」と話す尾林芳匡弁護士

東京都立高校1年だった息子(当時16)を2015年9月に自殺で亡くした母親が、約9300万円の損害賠償を求めて都を提訴した。訴えには、都によって母が受けた精神的苦痛も含まれている。弁護団の1人である尾林芳匡弁護士は10月4日、教育新聞の取材に対し、母親が提訴に踏み切った経緯、都に対する不信感について語った。

「母親の願いは『わが子の自死の真相を知ること』。それが都との交渉ではかなえられなかった」と尾林弁護士は言う。息子は生前、学校のアンケートに「悩みがあるので相談したい」と回答し、早退や保健室通いを繰り返していた。スマートフォンのバックアップから復元した一部のデータからは、いじめの可能性を示す友人とのやりとりやSNS(会員制交流サイト)での書き込みが見つかった。学校側は、本人にどんな悩みがあるのか尋ねたり、いじめについて調査したりするなどの対策を取らなかった。「それが自死を招いたと、母親は考えている」と尾林弁護士は代弁する。

16年1月、都教委は「いじめ問題対策委員会」の下に「調査部会」を設置した。母親は少しでも自死の理由を知りたいと願い、中間報告を求めたが受け入れられなかった。部会の進み具合は不透明だった。自死からちょうど2年が経過した17年9月、ようやく調査結果が公表された。「いじめを認定するのは極めて困難」という内容に、わずかな期待は裏切られた。

後に、母親はすがる思いで情報公開請求をした。手掛かりはなかった。調査資料や生徒の交友関係を示した資料は黒く塗られ、分かったのは自死した9月だけで保健室に4回も行っていたことだった。保健室で息子が訴えた内容を記録した資料や、クラスメートらが記入したアンケートの開示を求めたものの、「プライバシーを守るため」との理由から見せてもらえなかった。

母親がさらに態度を硬化させる事件があった。都教委との交渉中に担当者が高圧的な態度を示した。「大声で怒鳴ったり、書類をたたきつけたりした。『他の生徒に原因があるかのような疑いは人権侵害』という発言もあった」。遺族の心情をくみ取ったり、わが子を亡くした親の気持ちに寄り添ったりといった態度は感じられなかった。遺族が加害者呼ばわりされたことに母親は深く傷付き、「精神的苦痛を与えられた」。

尾林弁護士の専門は労働問題で、過労死に力を入れる。「過労死では、医師の診察カルテは重要な医療記録となる。保健室利用の記録もそれと同じで、プライバシーの問題は存在しないと考えられる」と話す。アンケートについても、内容をタイプで打ち直して弁護士に見せ、問題がなければ原告に見せる方法によって問題をクリアできると指摘する。

17年9月、母親は小池百合子都知事に再調査を求めた。知事は11月、知事部局に検証チームを設置して検討を開始し、18年7月に「調査は不十分だった」として、スマートフォンのデータなどを再調査すると発表した。

原告の母親と尾林弁護士は訴訟を通じて、傷付けられた遺族の名誉と心の回復、伏されたままになっている資料の開示、自死といじめの関係の究明を目指す。一審判決まで膨大な時間が流れるに違いない。「命が失われることの重さ、大きさは計り知れない。『自死の原因は分かりません』『資料は見せられません』。そう言われて納得できる親はいません」と尾林弁護士は言葉を結んだ。

被告の都教委は「訴状を精査してからコメントしたい」と述べる。母親に精神的苦痛を与えたとする訴えについては、担当者が遺族とやりとりする中で声を荒らげたことがあったことを認め、「遺族に対して感情が高ぶったところがあったのは事実で、遺族にはすでに謝罪した。かなり長い時間にわたり、丁寧に寄り添ったつもりだった。しかし、一回でもあってはならないことだった。寄り添い切れなかったことを深く反省したい」と話している。