広がるギフテッド教育 特別支援に描かれる未来

中邑賢龍教授=12月17日午前10時20分、東京都世田谷区、小松亜由子撮影

特別支援教育の施策として米国などが進める「ギフテッド教育」。高い能力を持ちながら精神面や社会生活面で困難を抱え、通常の学級では成績が伸びなかったり学校不適応を起こしたりする子供を「ギフテッド」と見なして個別プログラムを施す。全米ギフテッド教育協会によれば、米国では学齢期の約6%が対象になっている。

日本でも徐々に取り組みが広まりつつある。東京都渋谷区は新たに「渋谷区教育プログラム」を立ち上げ、対象を「とりわけ特別な才能を有する子供(いわゆるギフテッド)」とした。

日本財団では、「異才発掘プロジェクト ROCKET」と名付けたプロジェクトを展開。狙いを「突出した能力はあるが、現状の教育環境になじめず不登校傾向にある小・中学生を学習と生活でサポートすること」としている。

渋谷区ではいわゆる通級による指導を受けているなどの条件に当てはまれば誰でも受けられるのに対し、ROCKETは選考した中から顕著に「突き抜け感」があると判断した場合に対象とするなど違いはあるが、子供の才能を開花させようとする点では同じだ。

この両事業で活躍するのが、東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)教授だ。

■一斉指導から脱却

中邑教授は「全ての子供はユニークだ」と強調する。それが突出して目立つ子供もいるが、今の学校の仕組みではユニークさを伸ばすのは難しく、不適応が起きると話す。

「国はこれまで、効率良く教育を施すことを重視して一斉指導に固執してきた。子供のことを考えたら同じ体制を続けられるはずはない」。そう考え構想するのは「アカデミックリゾート」。各自の興味に応じて学べる場所を各地に作りたいという。例えばコイのことを詳しく知りたい子供は福島県郡山市で、小麦に関心のある子供は群馬県館林市でというように、子供が自ら現地に出掛けて学ぶという構想だ。

そのためには学校の「お休み券」が必要で、その券を使えば欠席できるという仕組みにしたいと話し、「一人で知らない所へ行くのは勇気がいるが、その不安を乗り越えて外へ飛び出す力が、海外へ出ていく力につながる」と語る。

それこそが究極のアクティブ・ラーニングで、教室の一斉授業で同じ活動をしても真のアクティブ・ラーニングにはならないと指摘する。

東京大学先端科学技術研究センター・福本理恵特任助教と館林版ROCKETの参加児童・生徒=12月19日午後2時20分、群馬県館林市、小松亜由子撮影
■自治体が進める新たな取り組み

中邑教授が重視するのは、一人一人の認知特性・性格特性。「アカデミックリゾート」は特性に合った学びを提供する場で、全国の自治体と連携したコンソーシアムを作りたいと言う。

「全てを学校教育に委ねるのは限界がある。地域が学びを提供することが必要だ」と指摘し、賛同する自治体が増えれば国も動かざるを得ないと語る。

すでに中邑教授と連携している渋谷区は、「ギフテッド」の概念に着目して取り組む全国初の自治体だ。実施するのは「毒キノコを見破れるか」などの「体験型探究プログラム」、専門家やプロらによる「トップランナートーク」、社会性の育成につながるプログラム。

区が未来像として掲げるのは「ちがいを ちからに 変える街」。重視するのは学校教育の場面で個に応じた学びを提供し、能力と個性を開花させることだ。

とはいえ、前例のない事業の運び出しは困難も多かった。担当する渋谷区教委の齋藤仁美指導主事は「ニーズはどの程度あるのか」「制度の中にどう位置付けるか」など、さまざまな懸念があったと話す。

「事業開始後は区内外から多くの問い合わせを頂き、プログラムに参加した子供や保護者から『これからも続けてほしい』という声を聞く中で、ニーズと確かな手応えを感じている。一方で課題も見えた。工夫や改善をしながら子供や保護者を支えていきたい」と打ち明ける。

18年度からは群馬県館林市が中邑教授と連携し、市立小・中学校に在籍する学校適応に困難を抱える子供を対象に「館林版ROCKET」を展開している。18年12月のプログラムでは館林市名産の小麦について、特性を調べ効果的な使い道を検証する実験をした。

「ここに来ると、いろんなことをもっと学びたいと感じて前向きな気持ちになる」「バカにされたり仲間外れにされたりしないで伸び伸び過ごせる」。「館林版ROCKET」に参加する子供たちの声だ。トライ・アンド・エラーの精神の下、特別支援のニーズに応じた新たな一歩が、少しずつではあるが着実に踏み出されている。