教育復興最前線(上) 演劇で学ぶ「伝える力」

東京電力福島第1原発事故で甚大な被害を受けた福島県双葉郡の県立ふたば未来学園で、新校舎が整備され、新たに中学校が開校した。4年前に開校した高校も同郡広野町の広野中に併設されていた仮校舎から移転。併設型中高一貫校として新たな歩みを始めた。教育復興の第一線でどのような試行錯誤と成果が生まれてきているのか、奮闘の日々を送っている教師たちやNPOスタッフへの取材を通して、その一端を報告する。

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ニューヨーク研修の報告会を終え、小泉進次郎衆院議員と記念撮影する生徒たち

中学校の開校式・入学式と高校の入学式が行われた4月8日、式典終了後、新校舎の中央にある多目的スペースで、新たに高校3年生になった生徒12人がニューヨーク研修の報告会を開いた。観客席には、衆議院議員の小泉進次郎氏、クリエイティブディレクターの佐々木宏氏ら「ふたばの教育復興応援団」の著名人たちが顔をそろえた。

生徒らは「原発事故の影響が続く中、地域に分断と対立が起きている」との問題意識を持ち、「世界の人々は分断と対立をどのように乗り越えようとしているのか」をテーマに、ニューヨーク市役所や日本政府国連代表部、米コロンビア大学大学院などで意見交換した経過を説明。「分断と対立はコミュニケーションによって乗り越えるしかない」という結論を導き出した。

発表を聞き終えた小泉氏は「みんなが最後に行き着いた分断とコミュニケーションの問題は、いま世界中の政治で悩んでいること。みんなが見つけた課題は、世界的な課題とぴったりそろっている」と述べ、生徒たちの深い学びに太鼓判を押した。

ふたば未来学園は成績優秀なリーダータイプの生徒ばかりが集まる学校ではない。原発事故による避難生活の後遺症もある。それが、なぜ世界レベルの問題意識を持つ人材に育ったのか。

大きな役割を果たしているのは、高校1年生の総合学習で履修する「産業社会と人間」の授業だ。

生徒たちは大型バスに分乗して双葉郡内でさまざまな大人たちに会い、復興の現状、地域社会が抱える課題や矛盾などについて話を聞く。インタビューする相手は、避難先から双葉郡に戻ってきて苦労しながら農業を再開した住民、震災と原発事故への対応に追われた浪江町役場の担当者など。東京電力副社長を直撃したこともあった。

このフィールドワークの成果を元に、生徒たちは自分たちで台本を書き、演劇に仕上げていく。この過程を通じて、生徒たちは多くの学びを得るという。

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力強い助っ人は、劇団「青年団」を主宰する劇作家・平田オリザ氏だ。平田氏は年間に6、7回学校を訪ね、指導に協力している。

「ある男子生徒が、これは絶対に褒めてもらえるだろうと思って、頑張って書いた台本をオリザさんに見せたことがありました」。演劇の授業を担当する英語科の齋藤夏菜子教諭は、ひとつの事例を紹介してくれた。

男子生徒は、震災後、道路を新しく造るため、町役場の担当者が住民に「家を立ち退いてほしい、お金は払うから」と説明するシーンを描いていた。住民が「何百年も住んでいる思い出のある家なのに、なんでだ」と反発すると、町役場の担当者は「時間がないんです。早く決めてください」と畳み掛けるストーリーだった。アニメ漫画の影響なのか、正義が悪をやっつける展開を描いた台本で、男子生徒は「どうだ、面白い芝居だろ」と自信たっぷりの表情だったという。

ところが、平田氏の反応は冷めていた。

「大人はそんな言い方はしないよ」と言って、あっさりダメ出しをした。 「君たちは、この大変な復興の問題をどうやって解決しようとしているのか、もっとちゃんと大人の行動を見た方がいいよ」「町役場の担当者は、こんなストレートに『早く決めてください』なんて言わない。どっちも復興のために良かれと思ってやっていることが、一方ではその人にとって不幸になってしまう。これは善か悪かではっきり決められないことなんだよ」と平田氏は続けた。

齋藤教諭は「ダメ出しされて、ものすごく悔しそうにしている男子生徒の顔を見たとき、私は涙が出るほど感動したんです。地域復興のために頑張っている大人たちの心の葛藤は、まさにニューヨーク研修の報告会で生徒たちが言っていた分断と対立の問題です。芝居を作ると、実際にその人物の代わりにセリフを言ったりするわけですから、生徒たちはだんだん頑張っている大人の気持ちに寄り添えるようになっていく。演劇をやらなければ、そこまで課題を理解できるようにならなかったでしょう」と話す。

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インタビューに応じる丹野純一校長

演劇の授業は、コミュニケーション教育の有効なツールだ。丹野純一校長は「演劇による教育の力は本当に大きかった」と実感を込める。

「バスツアーによるフィールドワークでは、大人が一生懸命頑張っているけど、うまくいかない双葉郡の現実を拾い集めてくることになります。その題材を演劇にして伝えていくときに、非常に多くの学びがある。コミュニケーション教育は、まずお互いに分かり合えない、というところから出発します。そこから他者と共有できるところを見つけていく力を付ける。他者とのコミュニケーションの在り方について演劇を通して学んでいくんです」

(教育新聞編集委員 佐野領)