教育復興最前線(中) 生徒を動かしたナナメの目線

東京電力福島第1原発事故で甚大な被害を受けた福島県双葉郡で教育復興のシンボルとなっている県立ふたば未来学園。最近成功させたプロジェクトとして、定食チェーン・大戸屋とコラボした「牛肉と里芋のみそ煮定食」の開発がある。今年1月末に期間限定で発売され、定食1150円と高めの値段設定にもかかわらず、全国で14万食を提供するヒットとなった。

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インタビューに応じる小椋ももこ教諭

開発した生徒は、2年生と3年生の総合学習「未来創造探求」で、アグリビジネスの授業を選んだ男子生徒5人。ところが、「この男子生徒たちは、実はあまりやる気のない生徒ばかりだった」と農業担当の小椋ももこ教諭は明かす。

高校1年生の総合学習「産業社会と人間」で演劇を通じたコミュニケーション教育を受けた生徒らは、2年生と3年生の総合学習「未来創造探求」で「原子力防災」「メディア・コミュニケーション」「再生可能エネルギー」「アグリビジネス」「スポーツ」「福祉」の六つの研究班のいずれかに所属し、課題解決を目指す授業を履修する。

小椋教諭によると、この中で男子生徒5人がアグリビジネスを選んだ理由は「農業が簡単そうだったから」。だから、大戸屋との商品開発も「生徒たちは当初、面倒くさがってしまい、“やらされ感”がたっぷりだった」という。

こんな生徒たちが自分たちから積極的にアイデアを出し、民間企業と一緒にヒット商品を作り出すほど授業態度が変わったのはなぜか。

決定的な役割を果たしたのは、ふたば未来学園に常駐するNPO法人カタリバのスタッフたちだった。

「私が目標とかスケジュールとか、いろいろ計画立てて説明をしても、生徒たちは『やりたくねー』という感じでした。でも、夏になってカタリバの人たちが授業に入ってくれるようになって以降、生徒のモチベーションが劇的に変わったのです」

小椋教諭は大戸屋とのコラボ作業に向けて「やるべきこと(TO DO)」を懸命に説明しようとした。ところが、カタリバのスタッフは「生徒たちが抱えていたWHYのところ、『なぜやるのか』『何のためにやるのか』をしっかり深掘りして説明してくれた」という。

「同じ『やらなければならないこと』であっても、私のTO DOに対して、カタリバのスタッフは自分から進んでやるミッションという言い方で生徒たちに接していきました。私には至らないところでした」

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カタリバのスタッフは親や教師の「上から目線」でも、友達のような「横からの目線」でもなく、話しやすいお兄さんお姉さんが持つ「ナナメの目線」から生徒たちに伴走するところが持ち味だ。ふたば未来学園には現在、正規スタッフ6人、大学生や大学院生のインターンが3人の計9人が常駐している。

放課後、カフェテリアのような多目的ホールを訪れ、カタリバのスタッフを取り囲む生徒ら

拠点は新校舎の中央にある多目的スペースだ。カフェテラスのような空間に、カタリバのスタッフがいて、放課後になると、生徒たちがやってくる。授業の補習をすることもあれば、生徒が自分の考えを深掘りしていくサポートをしたり、現役の大学生として進路相談に乗ったりすることもある。総合学習では、カタリバのスタッフが授業のカリキュラム作りから関わり、授業中には教室の後方に座って生徒たちに寄り添っている。

やる気を出した生徒たちは、急速に変化していった。小椋教諭は「実習も含めて言われてからやるような態度が、12月ごろには『きょうは発表会があるから自分で原稿を作らないといけない』といった自己管理力が付いてきた。卒業する頃には本当に成長していました」と振り返る。

ただ、授業は教師にとって真剣勝負の空間だ。NPOのメンバーがこれほど深く関与するケースはあまり例がない。小椋教諭は「最初はずいぶん抵抗感がありました」と率直に語る。

「教員の目が届かない所で外部の人たちが生徒の面倒を見るのは、『大丈夫かな』と思いました。でも、生徒たちが教室では見せない素顔を見せることもあり、不安は消えていきました。心強い存在です」

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ふたば未来学園とカタリバの協働作業は一昨年夏、広野中に併設されていた仮校舎にカタリバのスペースを設置し、放課後の活動をスタートした。カタリバのスタッフを束ねる双葉みらいラボの拠点長、長谷川勇紀さんはカタリバの役割を「伴走役であり、壁打ちの相手」と表現する。

「知識の獲得や物事を考えることは、授業の中でできる。けれども、実際に課題解決の実践や、自分が考えたことをより深掘りしていくとなると、授業だけでは時間的に足りないし、教員も全ての生徒に個別対応ができない。そのときの生徒の相手をカタリバとか地域の方々が放課後にやっています。地域全体で生徒たちを育てる体制ができています」

「カタリバとの協働は、なりゆきで始まりました」と、丹野校長は振り返る。「岩手県大槌町にあったカタリバの学習支援施設を見学したとき、被災地の生徒たちに“ナナメの目線”から寄り添うスタッフを見て、『ふたば未来学園の生徒たちにはこの人たちが必要だ』と思って、連携することにしました」

開校当初は生徒たちの心のケアも含めて、養護教諭と教員が対応していた。

「でも、率直に言って、抱えきれなくなっていました。そこにカタリバが入ってきてくれて、生徒たちが自分たちの悩みを打ち明けるようになりました。カタリバのスタッフには、生徒の相談相手になる資質だけではなく、教師と一緒に授業を設計する力もある。生徒たちの全てを学校が抱え込むことはできないし、手渡した方がうまくいくことが山ほどある、とつくづく思いました」

丹野校長の言葉は、実感がこもっていた。

(教育新聞編集委員 佐野領)

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