教育復興最前線(下) 福島の現実に向かい合う授業

福島県立ふたば未来学園の活動を外部から見ると、海外研修や著名人の応援など、きらびやかな印象を受ける。文科省は同県で唯一のスーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)に指定。校歌は詩人の谷川俊太郎が作詞を引き受け、制服は秋元康氏のプロデュースでAKB48の衣装デザインを担当する茅野しのぶ氏が手がけた。

真新しい演劇シアターでは演劇部の生徒がミーティングしていた

だが、取材した教師たちやNPOスタッフが異口同音に語るふたば未来学園の姿は、自己肯定感の低い生徒が目立つ平均的な公立校だ。

入試では募集定員を割り込んでおり、第一志望を落ちて不本意ながら入学してくる生徒も少なくない。また、大多数の生徒は小学校低学年で震災と原発事故に遭い、避難生活の経験を持つ。避難先でいじめに遭った生徒も大勢いる。

昨年赴任してきた齋藤夏菜子教諭は「どんなに優秀な生徒たちが集まっているのかと思って赴任してきたら、生徒たちの学力に、あまりにも幅があって驚きました。英語力でみると、進学を目指す優秀な生徒がいるかと思えば、高校生なのにアルファベットもちゃんと書けないような生徒もいる」と明かす。

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学力格差の問題を考えるとき、避難生活の影響がいまも尾を引いていることが分かる。

NPOカタリバの長谷川勇紀さんは「小中学校時代に基礎学力が全然定着していない生徒がいます。学校に行けなかったからです。転々と避難生活を続ける中で転校を繰り返し、だんだん勉強についていけなくなった、という話を本人たちから聞きます。だから、自分に自信のない子供が多い」と話す。だから、カタリバでは放課後の時間を利用して、基礎学力の低い生徒を相手に個別指導をいまも続けている。

避難生活で受けたいじめの体験も、多くの生徒に影を落としている。齋藤教諭がある卒業生の事例を話してくれた。

その生徒はいつもニコニコしながら「大丈夫です。大丈夫です」と言って、自分の意見をまったく言わなかった。じっくり話してみると、避難生活を送った東京で、深刻ないじめを受けていた。

小学校低学年だった生徒は「バイキン、あっちいけ」といじめられ、その後も「賠償金もらってんだろ」と言われて、たかられることもあった。それでも、心配を掛けたくないから家族に言えず、ずっと我慢していたら、自分の意見を素直に言うことができなくなってしまった。

「小学校のいじめ体験がそのまま人格をつくってしまって、いまでも嫌なことがあると、ニコニコして逃げてしまう癖がついていました」

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だが、開校から4年間の経験で、自己肯定感の低い生徒たちへの対処方法も見えてきてきた。

丹野純一校長は「悲しいかな、福島の子供たちはある意味マイノリティーになっているのです。特に双葉郡の子供たちには、そういう意識があります。自分たちが差別された経験を持っている子供が多数ですから。その現実と向き合い、他者とのコミュニケーション能力を付けていくために、大きな効果があったのはやっぱり演劇でした。ニューヨーク研修の報告会で、生徒たちが分断とかコミュニケーションという言葉を語ったのは、実はそういう背景があるのです」と話した。

震災と原発事故で生じた地域の分断と対立は、学力格差やいじめ体験という形で、今も子供たちに大きな影響を残している。この重たい課題をそれをどう乗り越えようとしているのか。

「双葉郡のことを知らなくて、心無いことを言う人たちに対して『もう話したくない』って言って、こちらが殻を閉じてしまったら、いつまでも状況は変わらない。ニューヨーク研修にいった生徒たちは、『じゃあ、どうするのか』をすごく考えていました」

インタビューに応じる齋藤夏菜子教諭

齋藤教諭は、ニューヨーク研修を通じて生徒たちが成長する過程を目の前でみてきた。

「生徒たちは考え抜いた末に、『分断と対立をなくすために、やっぱり伝えることが大事だ』という結論に行き着いたんです。その結論を実際にニューヨークに行って発表してみたら、思いの外すごい反響があった。生徒たちは自信を持ったと思います」

さまざまなコミュニケーションを体験し、3年生になった生徒たちがこれから1年間でどういう進化を遂げるのか。「いまからとても楽しみです」――。教師たちやNPOスタッフは取材の最後に、こう口をそろえた。

(教育新聞編集委員 佐野領)