東京都品川区が独自教科として教育課程に位置付けている「市民科」と、教科として始まって間もない道徳をコラボレーションした公開授業が7月6日、義務教育学校の同区立品川学園(荒川右文校長、児童生徒1172人)で行われた。また『オール1の落ちこぼれ、教師になる』(角川書店)で知られる、元高校教師で作家の宮本延春氏が講演し、大人が子供の気持ちに寄り添うことの大切さを語った。

全学年で「命」をテーマに据え、どの授業でも、道徳の教科書に掲載されている生命尊重をテーマにした題材を教材として活用した。
7年生(中学1年生に相当)の授業では、人を殺してはいけない理由やペットの殺処分などの問題を扱ったエッセーを読み、命を奪うことの是非を議論した。
人の命はなぜ奪ってはいけないのか」といった根源的な問いに対し、生徒らは自分の意見を述べ合ったり、命から連想する言葉をマッピングして考えたりした。
教師が、日本で1年間に殺処分される犬や猫の数、食肉の消費量とそれに匹敵する食べ残しの量を提示すると、生徒らは「こんなに多いなんて」と驚きの声を上げ、フードロスやペットの殺処分など社会問題への関心を高めた。
授業を担当した戸上琢也教諭は「今までの道徳は主人公の気持ちに焦点を当てた物語文が多かったが、今回のように説明文を基にテーマを絞っていくと、社会の課題にも目が行くようになる。データを提示して、より深く考えさせることが大切だ」と話した。
4年生では、女の子と祖父の会話を基にした物語から、命の大切さや人への感謝について考えた。
「命を大切にするとはどういうことだろうか」という教師の問いかけに対し、児童は「生きている時間は戻せないから、1日1日を大切にしたい」「支えてきてくれた人に感謝したい」「新しい命をつなぎ、支える人になりたい」「後悔のないようにいろんなことにチャレンジしていきたい」などと答えた。
授業を担当した豊田佳史教諭は「学びを深め、自分自身の生き方を考えていくのが市民科の狙いだ。道徳で感じたことや考えたことを、実生活の行動変容にまでつなげていきたい」と話した。

講演では、宮本氏が、自身の経験を基に、大人が子供とどう接していくべきかを話した。
宮本氏は、小学2年生の頃に同級生からいじめにあい、学校が嫌いになったという。勉強にもついていけなくなり、掛け算九九の二の段しか理解できないまま、中学校を卒業した。
当時を振り返りながら宮本氏は「いじめで苦しんでいる子供は勉強どころではない。勉強が分からなくなると無力感を持つようになり、何も挑戦しなくなる」と指摘した。
その後、宮本氏は建設現場で働き、両親の相次ぐ他界など、厳しい環境を生き抜いた。アインシュタインを特集したテレビ番組で物理学に興味を持ち、一念発起して定時制高校に入学。さらに名古屋大学に進学し、同大大学院を卒業後、高校の教師になった。
宮本氏は「いじめにあっていることを子供が大人に打ち明けてくれるようになるには、保護者や教師が子供の気持ちに寄り添いながら、共感する態度を示さなければならない。そうしななければ、子供が安心して話すことができない」と、大人の関わり方の重要性を語った。