遺伝子の優性⇒顕性、劣性⇒潜性に 日本学術会議が提案

教科書で遺伝子の説明に出てくる遺伝子の特徴を示す生物用語「優性」「劣性」について、優劣を意味するかのような誤解を与えかねないとして、日本の科学者で組織される日本学術会議は7月8日、優性は顕性に、劣性は潜性に言い換えるよう提案する報告を公表した。また、高校の生物の教科書で2000語を超える生物用語が重要と指定されていることが弊害を生んでいるとして、最重要語251語と重要語243語の計494語を高校の生物教育で学習すべき用語として改めて選定した。生物の教科書が大きく変わる公算が大きい。

高校の生物教育の重要語について説明する中野明彦博士

公表された報告は「高等学校の生物教育における重要用語の選定について(改訂)」。教科書の生物用語が2000を超えている現状について、学習上の障害になっているとともに、生物学が暗記を求める学問だとの誤解を生んでいると指摘。学習指導要領が高校の「生物基礎」で200~250語程度、「生物」で500~600語程度の重要用語を中心に指導するよう求めていることを受け、生物学に関連する主要学会の見解を踏まえて最重要語と重要語を絞り込んだ。

具体的には、2017年に公表した最重要語と重要語のリストから「脳、神経、心臓、花、葉」など一般にもよく使われる用語や、「集合管、糸球体、尿細管」など学習指導要領で扱わなくなった臓器の構造名など18語を削り、494語とした。

重要語の中で注目されるのは、19世紀にメンデルが発見した優性の法則に使われる生物用語「優性」「劣性」について、一方が劣っているかのような誤解につながりかねないとして、言い換えを提案したこと。この生物用語は、英語では dominantとrecessive と表現されており、これを優性・劣性、顕性・潜性のどちらに翻訳するかが問われている。

この言い換えは、17年に日本遺伝学会が提案したもの。日本学術会議では、17年に行った重要語選定の報告で優性・劣性を見出し語に、顕性・潜性を別名として記載した。しかし、その後、言い換えを許容する流れが定着してきたとして、今回の報告では、顕性・潜性を見出し語に採用した。

ただ、中学校の現行教科書では優性・劣性で記載されているため、混乱を防ぐために優性・劣性も別名として記載する。報告では、遺伝的に劣った形質との誤解を防ぐために、優性・劣性は将来的に使われなくなると予測している。

報告の取りまとめに当たった理化学研究所光量子工学研究センター副センター長の中野明彦博士は、9日の会見で、「血液型のABO式を考えると、OはAやBと結び付くとA型やB型になるが、OとOが結び付くとO型となる。だから、O型は劣性遺伝子と呼ばれるが、これは遺伝子の特性であって、形質が劣っているわけではない。当然ながら、O型の人がA型やB型の人よりも劣っているわけではない。それなのに、劣性遺伝子という呼び方をすると、遺伝的に形質が劣っているとの誤解を生みやすい」と説明した。

一方、生物の最重要語と重要語が大きく変わることで、これまで高校で「生物基礎」や「生物」を選択してきた生徒に混乱が生じる懸念もある。

こうした教育現場の対応について、中野博士は「高校の生物が用語を暗記する科目というイメージはなくなると思う。文系の生徒には、何を勉強したらいいのか、不安が起こるかもしれない。でも、そんな生徒たちにこそ、生物学が持つ本当の面白さを学んでほしい。教師には、どう教えれば生徒たちが生物学の面白さを分かるのか、考えてほしい」と話した。

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