文科省総合教育政策局の課題 校長経験者、浅田新局長に聞く

7月9日付で文科省の総合教育政策局長に就任した浅田和伸氏に、教員養成の課題や学校安全対策の強化、増加する外国人児童生徒の対応など、重要施策を聞いた。公立中学校の校長を3年間務めた浅田局長は、その経験を振り返りながら、多様な大人が子供を見守ることの大切さを語った。


子供の安全確保は大人の責任
――局長就任に当たっての抱負は。

昨年、組織再編で誕生した総合教育政策局のミッションは、学校教育と社会教育、家庭教育を通じた教育政策全体を総合的・横断的に推進することだ。その局をけん引する立場で責任と使命を感じている。

これまでの経験を生かして、筆頭局に値する仕事をしたい。特に、総合的かつ客観的根拠に基づいた政策立案を強化していきたい。

生涯学習、リカレント教育、教育人材の育成、学校と地域の連携協働、学校安全、外国人児童生徒への対応など、多岐にわたる重要課題に全力で取り組みたい。

――全国各地で教員採用試験の倍率低下が起きている。優秀な人材確保に向けた課題は。
公立中学校の校長経験もある浅田新局長

教員採用試験の倍率には、採用数が増えていることや若年層の人口減、民間企業の採用動向なども複合的に影響している。倍率にかかわらず、教員を志す人たちの意欲を大事にしたい。

一方で、学校における働き方改革も急務だ。日本の教員は他国と比べて授業以外に幅広い仕事を担っている。授業準備や子供と向き合うための時間を十分確保できるように見直しや適切な役割分担をしていく必要がある。

教育は、子供たちの成長に喜びを感じられる、本当にやりがいの大きい仕事だ。教員が志を持ち続けられる環境をつくっていきたい。

大学での教員養成も重要だ。教職課程は、教育のプロを育てる責任を担っている。学生の適性もよく見極めて指導してほしいし、これからの時代、特別支援教育やICTの活用などは全ての教員の「標準装備」にしてもらいたい。

――散歩中の保育園児を巻き込んだ交通事故やスクールバスを待っている小学生を不審者が襲撃する事件など、子供たちの安全確保が問われる事案が相次いだ。

安全の確保は教育の大前提だ。通学路での事件や事故を踏まえ、文科省としても関係省庁と連携し、登下校の安全確保対策の強化や通学路の安全点検の徹底などを推進している。地域に開かれた学校づくりと不審者対策の両立や通学路の安全確保などは、学校だけで全部やれるものではなく、保護者や地域の関係者、関係機関とも積極的に連携し、できる限りの手を尽くすことが大人の責任だ。

同時に、事件や事故を未然に防止するためには、その原因、動機、背景などにまで目を向けなければいけない。教育だけでなく、社会全体で真剣に考えねばならない。

――改正入管法の施行により、増加する外国人児童生徒への対応も課題になっている。

内閣官房教育再生実行会議担当室長として、「全ての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ」と題する第9次提言を取りまとめた。その際、重要な柱の一つとして「日本語能力が十分でない子供たちへの対応」についても提言した。実態として、外国人だけでなく、日本国籍でも日本語能力が十分でない子供たちも多い。生徒への支援だけでなく、保護者とのコミュニケーションも学校が苦労している課題の一つだ。

日本語の学習や学校生活への適応だけでなく、各教科の学力を身に付けることも大切だ。小・中学校までは外国人の子供も希望すれば公立学校に入れるが、その後の高校、大学などへの進学や就労も視野に入れた支援が重要になっている。

近年は携帯型の自動翻訳機もかなり身近になってきた。子供との個別の意思疎通にはある程度使えるようだが、現場では意図した内容が正確に伝わっているか確かめにくいという悩みもある。授業での教員や他の生徒の発言がリアルタイムで訳され、理解できるというところまではまだ遠い。それでも、子供たちのために役立つなら、ICT技術をはじめ、使えるものは積極的に使うべきだと思っており、そうした取り組みの支援も進めていきたい。

地域に開かれた学校づくりの経験を生かす
――校長の経験を国の教育施策にどう生かしていくか。
「もしできるならまた校長をやりたい」とも語る浅田局長。局長室には当時の生徒たちと映った集合写真も飾られている

国の教育行政に携わる中で、この仕事が本当に学校現場や子供たちのためになっているのかという自問自答があった。悩んだ末に、自分自身が学校現場に身を置いて教育に取り組み、現場から発言すべきだと考え、内閣官房参事官だった47歳のときに文科省にその思いをぶつけ、挑戦を許してもらい、東京都品川区立大崎中学校の校長になった。

それまでの経験から、学校現場ではさまざまなことがあろうと予想はしていたし、準備もして臨んだ。率直に言って、びっくりして腰を抜かすようなことはなかったが、全く予想通りということも一つもなかった。子供たちは多様で、学校も多様だった。同じ学校、子供、教員でも、去年と今年とでは全く違う。教育は、というより、人間はそういうものだと思う。

大崎中で仕事をして、地域と学校との太い絆も再認識した。何世代にもわたり卒業生だという家庭もある。少子化や学校選択制の影響などから「このままでは母校がなくなる」と心配してくれる人たちもいた。地域から必要と思ってもらえなければ学校は成り立たない。大崎中を大切に思ってくれる人たちとのつながりを最大限に生かし、子供たちや保護者から選んでもらえる学校にすることを目指して、できる限りのことに挑戦した。

毎年、大崎中で行われる地域総合防災訓練などは、生徒が地域のいろんな大人と接する機会でもある。子供たちにとって、多様な大人の目で見守られることはとても大事だ。先生に言われると反発する子供が、地域のお年寄りに言われたら素直に聞くということだってある。

また、学校以外でいろんな活動をして頑張っている生徒たちもいる。だから私は、部活動の応援だけでなく、ヒップホップダンスの発表会などにも応援に行った。子供たちには、誰かに認められた、褒めてもらえたという成功体験がとても貴重だ。それが自信や主体性につながり、自分から動けるようになる。全ての生徒たちに成功体験をさせてあげたいと思っていた。

教育は子供たちや社会の未来をつくる仕事だ。それを担う教師にはもちろん自己研さんが必要だが、教師や学校だけで全部を抱え込むべきではない。地域にはさまざまな経験を積んだ大人や専門家がいる。そうした方々の力も借りつつ、学校を核に、社会全体で子供たちが伸び伸びと力を伸ばせる環境をつくっていきたい。


【プロフィール】

浅田和伸(あさだ・かずのぶ) 東大文学部心理学科卒。85年、文部省(現文科省)。大臣官房審議官、大学入試センター理事を経て、19年7月に総合教育政策局長。57歳。香川県出身。2009年4月から3年間、東京都品川区立大崎中学校の校長として赴任。その経験をまとめた著書『教育は現場が命だ 文科省出身の中学校長日誌』(悠光堂)がある。