【常識破りの高校野球】(中)ICTでデータ野球を実践

短時間練習と部内のリーグ戦で強豪校と互角に渡り合う広島県の武田高校硬式野球部の指導法を探る3回シリーズ。第2回では、生徒1人1台のタブレット端末をフル活用してICTを使ったデータ分析力を養い、部員個々の目標意識を高めていく手法に焦点を当てる。


自己分析型データ野球

部員自らがPDCAサイクルを回せるようにするためのツールがICTだ。同校では、中学1年生から、全学年の生徒と教員に1人1台のタブレット端末を持たせている。これを授業はもちろん、部活動でもフル活用しているのだ。

武田高校硬式野球部の岡嵜雄介監督

活用の仕方にも独自の工夫がある。相手チームの選手の特徴や傾向を分析して対策を練る「データ野球」とは異なり、主として自分たちのチームや選手としての課題分析にタブレット端末を活用している。

部員らは定期的に体力テストを行い、さまざまな運動数値を測定してスプレッドシートに入力する。そうしたデータを元に、チーム全体から見て自分がどの位置にいるのか、目標となる選手は誰か、課題の克服のために必要なトレーニングは何かなど個々の課題を部員一人一人が考え、練習内容をアレンジしている。また、投手が投げるボールの回転軸や回転量を測定し、どんな変化球が向いているのか、試合では高めと低めどちらで勝負するのかバッテリーで話し合ったり、ヒット性の当たりの方向などを分析して課題を見つけたりしている。同校教諭の岡嵜雄介監督は「日本の教育現場はチームワークを重視し、全員に同じ練習メニューでトレーニングをさせる傾向にあるが、本校は違う。選手それぞれが特長を伸ばしてチームに貢献することが重要だ」と語る。

対戦チームの分析をしようとすれば、広島県内だけでも90以上のチームがある上に、予選はトーナメント形式で行われるため、どの学校と対戦するかは直前まで分からない。現実問題として、相手チームを分析する「データ野球」を高校野球に採り入れるのは難しい。

そんな中、武田高校の野球部では、年間を通じて実施している部内リーグ戦において「データ野球」を実践している。タブレット端末を活用して各チームが試合前に対戦相手の弱点を分析し、作戦をチャットで話し合う。試合の采配では、投手起用だけを監督が決めているが、それ以外の選手の起用や打順、ポジション、サインなどは、選手たちに委ねられている。監督は各チームの様子を見ながら、必要に応じてアドバイスをするだけだ。そうした実戦経験の積み重ねを大会本番で生かすのが狙いだ。

岡嵜監督は「アナログな紙のノートでは部員対顧問の間でしかコミュニケーションができないが、デジタルデバイスならば複数のチームメイト間で意見交換ができる。時には、作戦を提案しても文章が拙くてうまく伝わらないこともある。どうやったら伝わるか、思考力も鍛えられる」と話す。

タブレット端末から読める野球のオリジナルテキスト

タブレット端末からは、効果的なトレーニング法やけがへの対応、あらゆる場面を想定したセットプレーの動きを共有するなど、岡嵜監督が自ら作成した野球に関するテキストを読めたり、広島県内の野球場のデータを見たりできる。

練習試合では、前日までにどの選手が出場するかを監督があらかじめ決め、チームで使用しているアスリート専用コミュニケーションアプリで予告している。こうすることで、出場予定の選手が精神的にも身体的にもしっかり準備できるだけでなく、選手の保護者にとっても、自分の子供がどの時間帯に出るかが分かり、応援に来やすくなる。ホームページでチームの活動方針や普段の練習内容などを頻繁に情報発信しており、進学を検討中の中学生も武田高校野球部がどんなチームかよく理解した上で選んでくれるようになったという。

第3回では、元プロ野球選手でもある岡嵜監督がこうしたユニークな指導に行き着いた過程をたどる。