【山本崇雄教諭・山藤旅聞教諭】新しい教員の働き方

公立高校の教諭として、長年にわたり斬新な手法で教育改革を推し進めてきた山本崇雄教諭と山藤旅聞教諭。二人は今春、公立高校を辞し、私立新渡戸文化学園の教員として新たなスタートを切った。「私立での実践を一つのモデルとして、日本の学校教育の改革に広げたい」と語る二人が描く教育の未来とはどのようなものなのか。その狙いを縦横に語ってもらった。3回に分けてインタビューをお届けする。


今年度から新渡戸文化学園で教鞭を取る山藤旅聞教諭(左)と山本崇雄教諭

教員のまま多彩な肩書を持つ
――お二人は今年4月から新渡戸文化学園に勤務しています。現在はどのような働き方をしているのでしょうか。

山本 所属校である新渡戸文化学園に英語科の教員として週4日通い、さらに学園全体のデザインを考える管理職的な立場を兼任しています。また、週1日は横浜創英中学・高等学校に出向き、教育アドバイザーとして授業づくりや学校づくりの助言をしています。

その他に民間企業3社と契約しています。企業のリレーションシップマネジメントを行う日本パブリックリレーションズ研究所では研究主任。持続可能な社会の実現を視野に飲食店などを経営するゲイトと、教育系のアプリを開発するアルクテラスではアドバイザー的な立場で、CSRや教育の観点から助言などをしています。

山藤 私も学園での立ち位置は、山本と同じです。加えて、前任の都立武蔵高等学校でも講師を続けており、SDGsを学校に広めるアドバイザーのような役割を担っています。

さらに、持続可能な社会を目指す一般社団法人Think the Earthのプロジェクト「SDGs for School」では、子供たちが学校以外で社会貢献活動やソーシャルリアクションを起こす機会づくりにも取り組んでいます。

その他に、山本と同じく日本パブリックリレーションズ研究所でPRの考え方を学校に取り入れる活動をしたり、ゲイトと協働して三重県スタディーツアーを企画したりして、民間の方々と一緒に子供たちの未来に向けた教育デザインを模索しています。

――たくさんの肩書をお持ちですね。どのようなワークバランスなのでしょうか。

山本崇雄教諭

山本 基本的に日中は新渡戸文化学園にいます。授業数を通常の3分の2ほどに調整してもらっていて、授業以外の時間は会議をしています。現在は学園の方針やそれを授業にどう落とし込むかなど、いろいろな仕組みづくりをしているところです。横浜創英では週1日勤務して、授業づくりやPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)型授業のデザインを先生たちと協議しています。

企業との打ち合わせは、勤務時間が終わった後にオンライン上で行うなど、時間をやりくりしています。

新しい働き方を提案したい
――なぜ公立学校を退職して、このような画期的な働き方にチャレンジしたのでしょうか。

山本 理由は二つあります。一つは、未来を生きる子供たちに向けて、21世紀型のより良い教育モデルを作りたかったからです。

もちろん公立学校にいた25年間も、「非認知スキル型教育」への転換を目指して頑張ってきました。しかし、受験偏重型の教育スタイルを根本から変えるのは、とても難しかった。「受験と非認知スキル型教育は両立できる」との認識を浸透させるには、長い道のりがあると痛感しました。

二つ目は、教員の新しい働き方を提案したかったからです。私は現在、部活動を持たず、授業数も少ない代わりに、学校全体の改革に携わっています。さらにアドバイザーとして他校や企業とも仕事し、そこからも報酬をいただいています。

所属校に縛られず、個々の教員が持っているプロフェッショナルな部分を最大限に生かす新しい働き方です。収入については、所属校からの給与が減る代わりに、その他の企業や学校から受け取る報酬がプラスされ、トータルではバランスが取れています。公務員である公立教員で、こんな兼業スタイルを実践するのは現段階では難しいでしょう。

山藤旅聞教諭

山藤 私たちの根底には、「日本の学校の選択肢を増やしたい」という目標があります。現在の日本にある学校は、偏差値やテストの点数など、同じ物差しで測るところばかりです。

私たちが目指すのは、子供が社会とつながり、大人と対等な立場で課題の解決を目指す教育や、PBL、CBL(チャレンジ・ベースド・ラーニング)ベースで非認知能力を育む仕組みを作ること。学年や偏差値でクラスを選別しない、社会そのものを縮図化したような学校です。

全国の自治体に既存の学校と新しいスタイルの学校があり、子供たち一人一人が目指す将来に合わせて選べるようになればいいと考えています。受験型の学校教育を否定しているわけではありません。

私立学校でモデルケースを作る
――山本先生も山藤先生も公立学校で教育改革を実践してきましたが、やはり公立では限界を感じたのでしょうか。

山本 公立学校での限界を強いて挙げるなら、定期的な「異動」が大きかったかもしれません。非認知能力や社会につなげる教育の重要性を周囲に理解してもらい、ある程度の実績を出すところまで持っていくには、やはり数年単位の時間を要します。

限界を感じたというよりも、異動のサイクルと私自身に残されたキャリアを考え、バリバリやれる時間は限られていると考えたからです。

取り組みの趣旨を周囲に理解してもらい、やっと可能性や手応えを感じた矢先に異動。異動先で一から積み重ねても、数年後にはまた異動。自分だけでなく管理職や周りの教員も次々代わっていく中で、同じことを繰り返している徒労感があったのは事実です。

けれども、公立学校の教員たちの意識は変わってきていると感じます。公立学校でも普通科の中に非認知スキル型教育のモデル校を作り、学校を多様化し、子供たちの選択肢を広げることはできるはずです。

山藤 公立学校にいて内部から変えていくよりも、思い切って私立に出てモデルケースを作ってみたら効果的なのではないかと考えました。私たちが新渡戸文化学園で進めている全ての改革は、公立学校のカリキュラムの中でも実現可能な内容にするよう徹底しています。

私学で非認知能力を育む学校モデルを作り、それを水平展開していく。「公立学校や他校にまねしてもらう」と言うとおこがましいですが、形ができるとイメージがしやすいし、広がりも加速します。だから、私学に移籍しました。二人とも公立学校が嫌になって出てきたわけではないんです。

(板井海奈)


プロフィール
山本 崇雄(やまもと・たかお) 新渡戸文化小中学校・高等学校教諭(英語)。都立両国高校附属中、都立武蔵高校附属中で自律型学習者を育てる「教えない授業」を実践。新しい教育の在り方を提案する「未来教育デザインConfeito」の設立にも関わっている。著書に『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP)など多数。
山藤 旅聞(さんとう・りょぶん) 新渡戸文化小中学校・高等学校教諭(生物)、未来教育デザインConfeito共同設立者。一般社団法人Think the Earthの「SDGs for School」プロジェクト、ボルネオ島や東京・檜原村のフィールドを通じて、課題解決に向けて行動する人を育成する教育を実践。「SDGs出前授業」も行っている。
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