現役教員がいじめ題材の演劇 『親の顔が見たい』を上演

いじめがテーマの演劇『親の顔が見たい』が8月22~24日、神奈川県川崎市内で上演された。演劇集団のArt-Lovingが企画したもので、現役教員や元教員8人をキャストに迎える新しい試みで注目を集めた。クラウドファンディングで支援を募り、小・中・高生およそ150人を無料招待した。

キャストらの迫真の演技に観客の子供たちは息をのんで見入った(Art-Loving提供)

『親の顔が見たい』は、現役の高校教員であり劇作家でもある畑澤聖悟氏が、福岡県の中学生がいじめを苦にして自殺した実際の事件を受け、2008年に書き下ろした作品。架空の有名私立中学校で起こった、女子生徒の自殺を巡る物語となっている。

ストーリーは、女子生徒が残した遺書に名前があった加害者の保護者が集められた会議室を舞台に展開される。突然の事態に戸惑う校長をはじめとした教員たちと、自身の子供を必死に守ろうとする保護者の姿が生々しく描かれる。

上映後あいさつに立った、演出家のまんぼ氏は「いじめは、どの学校でも、どの社会でも起こりうること。当事者意識を持つことでしか立ち向かえない問題だ」と観客に呼び掛けた。

演劇を通して子供たちの創造力や発想力を育む演劇教育に取り組んでいるまんぼ氏が、活動中に知り合った教員らに声を掛け、現役教員の参加が実現したという。

キャストらは今年3月に顔合わせをし、約半年間にわたって毎週末川崎市の会議室などでリハーサルや打ち合わせを重ねてきた。キャストとなった教員は、子供を守るため驚くような言動で保身に走る加害者の親や、この学校にいじめはないと目を背けてきた教員などを演じた。

それぞれが演じる役の背景や人柄をディスカッションしたり、台本で描かれる前の物語を即興で演じたりしながら、役の人格そのものを自分たちに落とし込んでいった。

教育新聞のインタビューに応じる演出家のまんぼ氏

まんぼ氏は「見た人に自分ごととして感じてもらうためには、加害者の保護者や教員をただの悪者として描いてはいけない。役柄の背景からつくり込むことで、人間らしさを出したかった。初めて演劇に挑戦する先生でもすんなりと入ってこられたように思う」と狙いを明かす。

いじめが発生したクラス担任の新人教員を演じた小林真央教諭は、自身も3年目の高校教員。「もともと演劇が好きだったので挑戦した。いじめはデリケートなテーマだが、決して見て見ぬふりをしてはいけない。いじめについて考えること自体が身近になればいいと、願いながら演じている」と話す。

さらに役柄を演じるに当たり、「教師としてしっかりやりたい、生徒全員を愛したいといった、理想と現実の間に生まれる心の葛藤がリアルだった。私自身も教師として生徒と心が通じず、ふがいなさを感じる瞬間もある。この役を通してどんな時でも生徒を愛する強さを持つと決めた」と決意を明かした。

まんぼ氏は「いじめが起きたとき、学校が悪い、教育委員会が悪い、教員が悪いといった、枝葉末節(しようまっせつ)の議論はいいかげん終わるべきだ。それよりも当事者である子供たちをしっかりと中心に据え、なぜ起きるのか、どのようにすれば防げるのかなど要因を分析し、具体的なケアをすることが必要だ」と強調した。