主体的な学びの先行事例を紹介 G20教育関連イベント

21世紀の教育政策とSociety5.0時代における人材育成をテーマとする2019年G20サミット教育関連イベントが9月5日、東京・表参道の国連大学で開かれた。基調講演を行ったアンドレアス・シュライヒャーOECD教育・スキル局長は、主体的な学びの重要性を強調。日本における主体的な学びの事例として、福井県立若狭高校と福島県立ふたば未来学園の生徒や卒業生、教員が探究学習の成果を報告した。続いて、工藤勇一・東京都千代田区立麹町中学校長と平川理恵広島県教育長が、日本の教育現場で起きている変化や今後の課題について対談形式で議論した。

探究授業の成果を報告する、若狭高校とふたば未来学園の生徒や教員ら

冒頭、開会あいさつに立った柴山昌彦文科相が「Society5.0に向けて教育は大きな転換期を迎えている。課題解決のために国際的な連携を強化しなければならない」と述べ、技術発展に伴う急速な社会の変化に対応できる人材を育成するため、データや事例の共有など教育分野における国際協力の重要性を強調した。

シュライヒャー局長は、PISAによる学習到達度の国際比較で、週60時間のUAEよりも週36時間のフィンランドの方が生産性が高いというデータを示し、「教育の質を高める必要がある。基礎知識はもちろん重要だが、グーグルで検索すれば必要な知識はすぐに得られるのだから、暗記のような基礎知識の認知スキルだけでは評価されない時代がきている。グーグル検索で得られる知識を適切に活用し、その知識を発展させて問題解決につなげる能力が必要だ」と述べ、児童生徒のエージェンシー(主体性)を育てる教育こそが、いま求められていると強調した。

続いて、日本で実践されている主体的な学びの、先行的な事例が紹介された。

福井県立若狭高校の荒木美咲さんは、自分が住んでいる高浜町を活性化したいと考え、観光客の減少に着目。ヘルスツーリズムによる旅行者の呼び込みを探究学習で取り上げた。

「町を活性化するアイデアとしてヘルスツーリズムをみつけるまでに、2カ月かかった。探究学習は楽しかったが、楽ではなかった。答えを知っている人は誰もいなかったからだ。私がやり遂げられたのは、私のエージェンシーが成長したからだと思う」と話した。

若狭高校の渡邉久暢教諭は「生徒はテーマを見つけるのに苦労する。教師は生徒に寄り添って、生徒のエージェンシーを育むのに重要な役割を果たす。教師は自分たちのミーティングを頻繁に開き、探究学習の良さを全ての教科に取り入れるようにしている」と述べた。

福島県立ふたば未来学園を今春卒業した新潟大学1年生、遠藤瞭さんは、自分が東京電力福島第一原発事故で被災した同県大熊町出身で、避難生活を送った経験を説明し、「大熊町に戻って暮らすためには、事故を起こした原発の廃炉が不可欠になる。だから、原発の廃炉について調べるうち、トリチウム水が問題だと気付いた」と説明。

「トリチウム水の問題を専門家は大丈夫というが、福島で放出されると風評被害が起きる。だから、社会的な問題としても考えるべきだと考えた。ところが、周囲の誰もトリチウム水についてちゃんと説明できない。現状は、誰も責任を取りたくないのだと思った。この問題をどうするのか、探究授業のテーマにした」と語った。

遠藤さんはトリチウム水について調べ、地域全体で問題を考えるために、地元のスーパーで高校生を含めて住民や電力会社、行政などの関係者が参加するシンポジウムを開いた。この経験が探究の授業そのものだったという。

ふたば未来学園の南郷市兵副校長は「遠藤さんの取り組みによって、多くの人がトリチウム水の問題について考えた。遠藤さんは間違いなく社会を動かす触媒になった」と説明。この探究授業を支えた教員の考え方について、「廃炉は重要なテーマ。この問題に取り組むにあたって、私たち教員は2つのポリシーを決めた。まず、大人の都合で利用しないこと。もうひとつは、遠藤さんと地域社会の橋渡しをすることだった。生徒と教員が一緒になってチャレンジすることで、生徒の背中を押すことが大事だった」と説明した。

そのうえで、南郷副校長は「課題もある」と切り出し、「遠藤さんはエージェンシーを身に付けることができた。しかし、いまの大学入試は、そのようなエージェンシーを評価してくれるだろうか。われわれはこの問題に責任を持つべきだ」と述べ、主体的な学びの成果が必ずしも大学入試で評価されない日本の現状を変えていく必要性を訴えた。

次のセッションでは、シュライヒャー局長がコーディネーターとなって、工藤校長と平川教育長が登壇。工藤校長は、協調性を重視する従来の日本の教育が限界にきていると指摘して、「改革を実行するためには目標の設定が重要だ」と述べた。

平川教育長は「日本はいろいろなものが選べる豊かな社会なのに、公立学校は定められたところに行かなければならない。教育にも選択肢が必要だ」と語り、こうした多様な教育が受けられる環境を作っていくためには、大学入試改革が不可欠だと強調した。

イベントには先進20カ国の教育関係者ら約300人が参加。若狭高校とふたば未来学園の生徒や卒業生、教員は英語でプレゼンテーションを行った。

※工藤勇一校長と平川理恵教育長の対談内容は、後日詳報します。