「このままでは『やばい』」 給特法改正案に学生ら懸念

国会で審議が始まろうとしている給特法改正案に対し、教員志望の学生らからも懸念の声が上がっている。「Teacher Aide」をはじめとする学生団体が10月27日に東京都世田谷区の日本大学で開いたシンポジウムには、学生や教員ら約60人が参加した。

インタビューに応じた学生は変形労働時間制に疑問を呈した

学校の働き方改革としての変形労働時間制の導入は、教員志望の学生にどう映るのか。シンポジウムを企画した「Teacher Aide」のメンバーに聞いた。

学校の労働環境を学生は知らない

関東地方の教員養成系の大学4年生で、国語科の教員免許を取得し、今年、地元で教員採用試験を受けた高田桜さん(仮名)は「業務量が変わらないのに変形労働時間制を導入して、教員に何の恩恵があるのかよく分からない。このままでは、ちょっと『やばい』」と危機感をあらわにする。

学校の働き方改革が社会問題となったとき、思い浮かんだのは中学生の頃に教わっていた熱血教師の姿だった。野球部の顧問として全国大会出場を目指し、授業研究にも熱心。自分の子供がいるのに自宅にほとんど帰っていなかったその教師に、生徒だった高田さんが思わず「寂しくないんですか」と聞くと、「生徒のためだから」と答えが返ってきたことを、今でも鮮明に覚えている。

高田さんは就職活動もしたが、教育実習を通じて教員を志す気持ちの方が就職を上回った。そして、就職活動をしていたときは、その企業の残業時間や労働環境を気にしていたのに、目指そうとしている教員の労働環境については何も知らないことに気が付いた。「学生が学校の労働環境について何も知らないまま教員になっている。このままでは何も変わらない。誰かが変えてくれるのを待つのではなく自分から動こう」。高田さんはそう考え、Teacher Aideの活動に関わった。

就職活動で、高田さんは変形労働時間制を実施している企業も受けた。その企業では、具体的な繁忙期と閑散期の時期や労働時間がデータで示され、そのメリットが納得できたという。しかし、教員の仕事に繁忙期や閑散期があるとは思えない。そもそも、実際の教員の仕事がどういう状況なのか、現場の教員も大学の授業も教えてくれないと高田さんは感じた。

高田さんは「教員を目指す学生は減っていると肌で感じる。教員採用試験の倍率が下がっているのは、民間企業の就職状況が良いからだと言われているが、絶対にそれだけではない。教職の魅力を発信することも大事だけれど、実際の教員の仕事がどういう状況なのかを私たちは聞きたい。変形労働時間制に反対する声がこれだけ上がっているのに、国が導入を急ぐ理由が分からない。学校現場と政策サイドの間に、あまりにも距離がある」と訴えた。

やることの優先順位が違う

東京都内の私立大学2年生の佐野大輝さん(仮名)は、もともといじめ問題に関心があり、その要因を探るうちに学校現場の多忙化が一因なのではないかと考えるようになった。

「いじめに学校が十分に対応できないのは、教員が子供に向き合う時間が少ないからで、学校の業務に余裕がないからだ。教員の勤務環境が改善できれば、学校は子供にとっても過ごしやすい環境になるはずだ」と指摘する。

その問題意識の下、佐野さんは中教審の学校の働き方改革特別部会の傍聴にも足を運んだ。今年1月に出た答申を読み進めていくと、その中で変形労働時間制の導入がうたわれていることに思わず目を疑った。そこに書かれた変形労働時間制は、合法的に労働時間を増やす仕組みとしか考えられなかった。

「これではますます教員は倒れていく。子供と向き合う時間も減るし、これまでの学習環境の維持すらも難しくなるのではないか」と不安が大きくなり、今では教員を目指す気持ちもゆらいでいるという。

変形労働時間制について、佐野さんは「やることの優先順位が違うのではないか。業務の精選ができていない現状で、学校現場に全てを丸投げしている。少なくとも、業務量が大幅に削減され、教員の長時間労働が解消されない限り、変形労働時間制を導入すべきではない」と話す。

また、これだけ大きな問題であるにもかかわらず、大学の教職課程の授業で習わないことにも違和感を覚えた。そこで教育政策を学ぶ教職課程の授業で、学校の働き方改革を取り上げるよう、担当する大学教員に直談判したこともある。

佐野さんは「教員養成学部のない大学では特に、大学の教職課程の授業で教えられなければ、情報源はツイッターなどに限られてしまう」と指摘した。

Teacher Aide東京支部の代表の学生が、所属する教員養成系大学の学生約750人に実施したインターネット調査によると、教員の労働環境に「問題意識を持っている」「どちらかというと持っている」と答えた学生は95.0%とほとんどを占めた。一方で、給特法について「聞いたことがない」と答えた学生は54.3%に上った。

調査を実施した学生は「このことが学校の労働環境が変わらない要因なのではないか。学生をはじめ、社会全体がもっと給特法について関心を持つ必要がある」と話した。


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