給特法と教員の働き方 戦い続ける斉藤ひでみ氏の思い

臨時国会で審議が始まろうとしている給特法改正案。現職の高校教員であるにもかかわらず、給特法の問題を発信し続けてきた斉藤ひでみ氏(仮名)は、改正法案の柱である変形労働時間制の導入に反対する署名活動を展開し、国会や文科省に現場の声を届けた。先日開催された院内集会で、斉藤氏は本名を明かし、この問題の深刻さを訴えた。なぜそこまでのリスクを背負いながらも、斉藤氏は戦い続けるのか。斉藤氏の思いを聞いた。


ノンストップ労働で現場がますます疲弊する
――署名を国会や文科省に提出したが、どのような声が寄せられたか。
給特法の問題を訴え続けてきた斉藤氏

変形労働時間制に対する現場の生の声を拾い、国会に届けることが署名活動の狙いの1つだった。以前から取り組んでいる給特法の見直しを求めた署名活動よりもコメント数は少なかったが、予想以上に子育て世代の女性の教員から不安の声が多く寄せられた。

私は現職の高校教員だが、定時を過ぎたら帰宅し、授業準備やテストの採点などは自宅に持ち帰っている。もちろん、家族と過ごす時間も大切にしている。今回の変形労働時間制の導入は、そうした家庭を持つ教員への、暴力以外の何ものでもない。本来、全ての教員に確保されるべき生活時間が、勤務時間が延びることによって減ってしまう。

――実際に変形労働時間制が導入されると、学校現場にどのような影響が出ると考えているか。

改正法案では、変形労働時間制を導入するためには、自治体が条例を定めることになっているが、実際の運用面で不安が残る。個々の教員の状況や意見を聞かないまま、校長が恣意(しい)的に決めてしまう可能性があるし、極端な場合、普段の授業のある日をその分延ばした分、定期テスト中は勤務時間を午前中だけにし、定期テストの採点は自宅で行うことを暗黙の了解とするような、国が想定していない運用が起こらないとも限らない。実際の学校現場での運用を、文科省がどこまでコントロールできるのか疑問だ。

さらに、現状では教員の勤務中の休憩時間はほとんど確保されていない。これまで8時間のノンストップ労働だったのが、10時間のノンストップになれば、心身への負荷は計り知れない。そうなれば、疲労をため込む教員がますます増えるのではないか。

スキー場のように、冬季の一時期だけ忙しい職場で、それ以外の時期の労働時間を少なくするのとは違い、学校は夏休みしか閑散期がなく、それ以外の時期は常に繁忙期だ。そもそも、夏休みも暇なわけではない。

この問題は教員の問題だけに収まらない。本来、地方公務員には変形労働時間制は導入できないはずなのに、これを公立学校の教員に認めてしまえば、今後、他の公務員にも広まっていく恐れがある。日本の労働史の中でも大きな分岐点になるかもしれない。だからこそ、あらゆる観点から議論を尽くす必要があり、教員だけでなく多くの人がこの問題に関心を寄せてほしい。

一人のリアルな教員として
――給特法には、どんな問題があると考えているか。

給特法は、教員の働き方には特殊性があり、残業代を支払うことは見合わないとして、4%の教職調整額の支給を定めた法律だ。私は教員の業務のうち、授業研究や授業準備などについては特殊性があると思っている。それをある程度、業務ではなく個人の裁量としてできるようにすることも認められていいと考えている。

しかし、現状は授業準備の時間どころか、あまりに多くの業務を教員が抱えていて、給特法によって残業代が支払われていない。これでは法の悪用だ。残業代を支払いたくないために給特法を盾にしているのだとするなら、法を廃止して、時間外労働に対して正当な残業代を支払うようにした方がいい。

――今回の署名活動の院内集会を機に、本名を公表した。その意図は。

名前や顔を出すことについては、昨年末からずっと悩み続けてきた。名前や顔を出すことによって、こうした活動にストップがかかるリスクがあった。しかし、そのリスクを負ってでも、変形労働時間制の導入は阻止しなければならない重要な問題であり、ここが勝負どころだと感じた。

また、これまでツイッターで「斉藤ひでみ」として発信し続け、フォロアーも増えたが、あくまでも私自身は一人の現職の高校教員にすぎない。本名の私が学校で働き方に関する改善策を提案しても、ほとんど見向きもされず、何も変わらない。

変形労働時間制の導入に反対する署名を提出し、文科省で記者会見に臨む斉藤氏(中央)

社会では、教員の長時間労働の実態が知られるようになり、学校の働き方改革の必要性が理解されるようになってきた。それにもかかわらず学校は変わらない。アイコンであった「斉藤ひでみ」ではなく、一人のリアルな教員として、生徒により良い授業をし、目の前の職場を変えなければいけない。

一方で「教員が実名でおかしなことに対しておかしいと声を上げて、何がいけないのか」という思いもある。生徒に対して、私はそういう教師としての姿勢を示したかった。

給特法の下では、日本の教育は崩壊してしまう。この国の未来を考えれば、変形労働時間制は絶対に許されるものではない。国会では、この法案が本当にこの国の教育のことを考えたものなのかどうか、慎重な議論を重ねてほしい。


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