変形労働時間制導入の要件 文科省の合田財務課長に聞く

給特法改正案に盛り込まれた1年単位の変形労働時間制導入を巡り、さまざまな懸念や批判の声が上がっている。教育新聞が実施した「Edubate」の読者投票では、91%が変形労働時間制の導入に「反対」と答えている。公立学校の教員に適用する変形労働時間制は、一般的な変形労働時間制とどう違うのか。学校の働き方改革を所管する、文科省初等中等教育局財務課の合田哲雄課長に聞いた。

給特法改正案の狙いを説明する合田財務課長

同課長は、改正法成立後、変形労働時間制を活用する場合の運用上の具体案として、文科省が指針を定め、変形労働時間制によって教員の業務量が増えないようにする制度上の対応策を説明した。

教職員の勤務時間条例で改正モデル案示す

今回の給特法改正案は、1月の中教審の「学校の働き方改革答申」に基づくもの。公立学校教員の超過勤務時間の上限を1カ月45時間、年360時間以内とする「上限ガイドライン」を文科大臣が定める「指針」に格上げすることと、自治体が条例を定めれば、1年単位の変形労働時間制を活用できるようにし、夏休み期間中などに休日のまとめ取りを可能にすることの2つが柱。

答申や上限ガイドラインが示され、各自治体で学校の働き方改革に向けた取り組みが始まっているものの、自治体間で差があるのが実情だ。そこで文科省は、2016年から毎年実施している、教育委員会を対象とした学校の業務改善のための取り組み状況調査について、今年度からICTやタイムカードなどによる客観的な勤務時間管理を実施していない自治体名を公表。教員の正確な勤務時間を把握するための環境づくりを急ぐ。

給特法の改正によって上限ガイドラインが指針として法的に位置付けられれば、教員の勤務時間管理の徹底に実効性を持たせることができる。文科省では成立後、県費負担教職員の勤務時間条例や教育委員会規則の改正モデル案を示し、「指針」の枠組みで働き方改革を進めるよう、教育委員会に促していく方針だ。

合田課長は「教育は自治事務なので、国として指示や命令はできないが、法律に根拠を置いた指針について、これらのモデル案を示してもなお対応しないということは、わが国の自治行政の中では考えられない」と説明。その取り組み状況についても公表していく考えを示した。

「指針」で定める6つの要件

もう一つの柱である1年単位の変形労働時間制の導入についても、合田課長は「勤務時間の縮減とは全く別の話だ」とくぎを刺す。
民間企業で導入されている変形労働時間制は、明確な繁忙期と閑散期がある業務で、繁忙期の労働時間を延長する分、閑散期の労働時間を短くする制度だが、今回の公立学校の教員に適用される変形労働時間制は、答申の提言にもあるように「休日のまとめ取り」を前提にしている。

学校週5日制が導入される前は、教員の夏休みのまとめ取りが一般的に行われていた。また、岐阜市では18年から、市立小中学校などで、平日10日を含む16日間連続の学校閉庁日を設定している。

1年単位の変形労働時間制の導入による「休日のまとめ取り」のイメージ

文科省が想定しているのは、こうした休日のまとめ取りを各自治体で実施する際に、教員の有給休暇や土日勤務の振り替えだけではなく、学期中の勤務のうち、学校行事などで在校時間が長くなる分を1時間単位での勤務時間として積み上げ、その分を新たな休日としてまとめ取りできるようにすることだ。

従って、学期中に勤務時間を長くした分は休日としてまとめ取りすることとなり、夏休み中の勤務時間が5時間45分勤務、といったように短くなるものではない。

また、現状で夏休み中に平均5日程度の有給休暇を教員が取得している実態と、学校の業務の状況を踏まえれば、変形労働時間制を導入したとしても年間に5日間程度の休日を確保するくらいが限度と文科省はみている。

有給休暇と変形労働時間制による休日のまとめ取りを合わせれば、岐阜市と同様、平日10日間の休みの確保が可能になる計算だ。そうなれば、学期中に延びる勤務時間は年間40時間程度となり、勤務時間が延びる日数も限られることになる。

変形労働時間制の導入に当たり、具体的な運用などは文科省令で定めることになる。文科省はこの省令の中に、変形労働時間制を導入する場合は、指針で定める要件に従うよう明記する方針だ。そうなれば、自治体は指針に定める要件に沿った運用を条例で規定することになる。

指針では、①上限ガイドラインや部活動ガイドラインを順守している②終業から次の始業までの勤務間インターバルを設ける③勤務時間の延長で積み上げた分は勤務時間の短縮ではなく、休日として取得する④勤務時間を延ばす日は、4、6、10月といった学校行事などが立て込み、児童生徒も遅くまで残っていて、教員も業務がある時期に限る⑤勤務時間を延長した時間に新たに授業を入れたり児童生徒の活動時間を延長したりせず、勤務時間の延長により在校等時間がさらに増加しないようにする⑥職員会議や研修は所定の勤務時間内に行う――の6点を、変形労働時間制を導入する際の具体的な要件とする予定だ。

また、育児や介護などの事情を抱えている教員については、同じく省令で変形労働時間制を適用しないなどの配慮をすることも定める。

合田課長は「もしも指針の要件を満たしていないような運用が自治体でなされていれば、文科省として指導する。変形労働時間制はあくまで学校単位で取り得るオプション。まずは在校等時間の上限を順守する必要があるため、導入する学校が初めから多いとは思っていないが、選択肢を広げたい」と説明する。

文科省では、22年度をめどに教員の勤務実態状況調査を実施し、学校の働き方改革の進捗(しんちょく)を見極めた上で、給特法をはじめとする教員の労働環境に関する法制的な枠組みの見直しにも着手する。

合田課長は「今回、中教審の答申としては初めて、給特法をはじめとした教員の労働環境に関する法制的な枠組みの見直しが指摘された。初等中等教育全体で100万人近い公立学校教師の働き方に関することであるので、見直しにはしっかりとしたデータと、今後どうしていくかという国民的な議論が必要だ。まずは現行の枠組みの中で勤務時間管理と業務の棚卸しを進めるとともに、文科省でも教職員定数の改善や外部人材の活用といった条件整備、中教審で議論されている小学校高学年の教科担任制の導入、部活動の在り方の見直しなどの総力戦に全力で取り組み、成果を出したい」と強調した。


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