【英語民間試験】文科省の責任は 受験生への配慮は

「延期をすることによって、新たな混乱が生じるという危惧にも思いを巡らせてきた。しかし、ここで一度立ち止まって、システムを見直し、皆さんから評価をされるものに作り直していく。そのための混乱の方が優位だとの判断に至った」――。大学入学共通テストへの英語民間試験活用の見送りを表明した萩生田光一文科相は11月1日、閣議後の記者会見で、決断の背後にあった心情をこう説明した。見送りの理由、そもそも民間試験を大学入試に活用する是非、文科省の責任、そして振り回された受験生への配慮…。萩生田文科相の会見内容から問題点を整理した。


見送りの理由

英語民間試験の導入見送りに理解を求める萩生田光一文科相

萩生田文科相は会見の冒頭発言で、見送りを決めた理由について、経済的に困難な状況にある受験生や、離島など遠隔地に居住する受験生に「等しく安心して試験を受けられるような配慮」が不十分だったことを挙げた。

文科省は大学・短大に9月30日までに大学入試英語成績提供システムを導入するかどうかを確定するよう促し、英語民間試験の実施団体には大学入試センターが受験に必要な共通IDの発行申し込みを受け付ける11月1日までに試験会場を提示するよう求めてきた。しかしながら、萩生田文科相は「今日11月1日の時点で、いつどの会場で試験が行われるか、詳細を提示した団体もあるが、全体を通じて現段階で確定することができない状況」と述べ、必要な準備が整わなかったことを認めた。

さらに「受験生の立場に立ったとき、自分が受けようと思っている試験が、今日の段階になっても、どの市の、どの場所で、いつ試験が行われるかもわからないまま、準備を続けるというのは、限界があるのではないかと思った」と説明。高校現場から噴き出している不安の声を、教育行政の責任者がそのまま受け入れたかのような姿勢を見せた。

この結果として、「文部科学大臣として自信を持って受験生のみなさんにお勧めできるシステムにはなっていない、と判断せざるを得ない」と、見送りの理由を説明した。

文科省の責任

時間をかけて準備をしてきたはずの英語民間試験の活用が、いまになって準備不足になった理由はどこにあるのか。調整にあたった文科省の責任をどう考えるのか。萩生田文科相は記者会見でこう答えた。

「大きな点として文科省と大学入試センターを通じて、民間試験の実施団体との連携調整が十分にできなかった点は、当然、文科省の中にも責任がある。このため、大学入試センターと実施団体との協定書締結完了が9月までずれ込んだ。各大学における民間試験の活用状況や実施会場、日程に関する情報の公表が結果的に遅れることとなった。また経済的状況や居住地域に関わらず、等しく安心して試験を受けられるような配慮が現段階で、残念ながら、必ずしも十分ではなかった。とりわけ高校生、受験生のみなさんに不安を与えている状況は解消されていない」

また、萩生田文科相がテレビで「自分の身の丈に合わせて頑張って」と発言し批判を受けて撤回したことも混乱に拍車をかけた。見送りの決断と「身の丈」発言の関係については「私の発言が直接(見送りを決断した)原因となったというわけではない」「不用意な発言によって受験生の皆さんに不安を与えたのは事実であり、おわびをして撤回したところ」と説明した。

民間試験を大学入試に活用する問題点

今回の大学入試改革では、英語4技能を評価するために民間英語試験を活用することには、当初から是非論が交わされた経緯がある。見直しの決断に当たり、萩生田文科相は、この是非論について「そのことも含めて抜本的に見直していきたい」と述べ、改めて抜本的に議論する考えを示した。

その理由として、現在の枠組みでは大学入試センターと実施団体の関係は「契約行為であって、委託事業ではない」ことから、受験費用の減額や具体的な試験会場の提示などを巡って実施団体に強制力を発揮できないことを挙げた。

萩生田文科相は「実施団体と今後どのような協力関係を構築できるのか、見極めていかなければいけない。何か問題があったときに、指示や命令を出すようなことは仕組み上できない。そうなると継続的な運営が難しくなる心配もあるんじゃないか」と指摘。「(文科省は)実施団体の皆さんにお願いをする立場でしかないという点に大きな問題があると思う」とも述べ、今回、英語民間試験の活用を見送る一因だったことを明らかにした。

また、文科省が実施団体に受検料の減免措置を求めた点についても、「実施団体は民間企業あるいは民間の団体であるから、当然ながら経費や営利も考えなければならない。構造上、ただ単に減額を実施団体にお願いするだけでは解決はしないという、判断に至った。公的補助も含めて今後検討していきたいが、今の段階では間に合わなかったというのが正直なところだ」と述べ、制度的に再検討する必要があるとの考えを示した。

突然の見送りで実施団体から損害賠償を求められる恐れがある点については「訴訟提起の可能性については、コメントをする立場にない」としながらも、「これまで懸命に準備を進めていただいた各実施団体に対しては、今回の判断について文科省として丁寧に説明をしていきたい」と述べた。

新たな英語試験の在り方

英語民間試験活用の見送りを受け、萩生田文科相は2024年度に新たな英語試験を導入し、その在り方を今後1年間かけて検討することを表明した。大臣直轄の検討会議を設置し、「仕組みも含めて抜本的に、全面的な見直しを図っていきたい」と説明。自らイニシアチブを発揮する考えとみられる。

会見では、新たな英語試験の姿について「試験会場を実施団体任せにした点は反省しなければならない。国が大学入試制度を変えて試験を実施するのであれば、文科省の責任で会場の確保をきちんとした上で、民間試験の実施団体に使ってもらえれば、こういうトラブルがなかったのではないか。まずは受験生が身近できちんと試験を受けられる環境を作っていきたい」「経済的なことで厳しい環境にある受験生もいる。財政的な支援もして、チャレンジをする環境を平等につくっていくことに、腐心していきたい」と説明。

また、検討期間に1年間をかける理由については「どうしたら交通困難地域の人が受験をしやすくすることができるのか。あるいは経済的に厳しい状況にある人たちがチャレンジしやすい環境が作れるのか。全ての問題点を洗い直して、しっかりと制度の再構築を図っていきたい。そのためには必要に応じて、予算を要求することもでてくるかもしれない。こんなことも含めると、年度をまたいで1年間ぜひ検討に時間をいただきたい」と述べ、理解を求めた。

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