『脱学校』が見えてくる スタディーログの未来

最先端の教育イノベーターが集結するグローバルカンファレンス「Edvation×Summit 2019」は11月5日、2日目を迎え、「スタディーログの未来と課題」と題したパネルディスカッションが行われた。ICT環境の下で学習を進めていくと、児童生徒一人一人の学習履歴がスタディーログとして蓄積されていく。新学習指導要領が掲げる個別最適化された学びを高いレベルで実現するためには、スタディーログの活用が鍵になるとみている識者は多い。セッションでは、ブロックチェーン技術を使ったスタディーログの管理など、最先端の動きが報告され、「スタディーログによって『脱学校』が現実的な選択肢になってくる」などと学校教育の未来像を巡って刺激的な意見が交わされた。

スタディーログの管理方法について説明する橋田浩一・東京大学大学院教授(左)

パネリストは▽橋田浩一・東京大学大学院教授▽稲田友・NTTコミュニケーションズ smart education推進室担当課長▽圷(あくつ)健太・LasTrust代表取締役▽小野成志・NPO法人CCC-TIES副理事長――の4人。石坂芳実・ICT CONNECT21技術標準WG担当がコーディネーターを務めた。

稲田氏は、NTTコミュニケーションズの教育クラウドプラットホーム「まなびポケット」が提供するドリル教材や、電子化した生徒のノートを集積した授業支援システムの学習履歴をスタディーログとして分析した結果を報告した。

ドリル学習のスタディーログでは、学習行動や正誤判定状況を機械が学習して1年間の変遷を追った。その結果、▽初回正答率の高い生徒は、ドリルに物足りなくて学習しないため、学習時間が短い一方で、最終正答率に改善が見られない▽ドリルの内容が合った生徒は、学習時間が長く、初回正答率と最終回答率を比較すると大幅な改善が見られた▽初回正答率が低く、学習時間もあまり長くなかった生徒は、最終回答率も低いままだった――ことが分かった。

こうしたスタディーログの結果を分析することで、生徒一人一人に個別最適化された学習方法の設計が可能になり、学習の効率が大幅に高まるという。

また、生徒の授業ノートを分析していくうち、孤立傾向のある生徒が浮かび上がった事例もあった。この生徒は表面的には問題がなく、アンケートでは「授業に満足」と答えていたが、しばらくして不登校になった。

稲田氏は「スタディーログの分析によって、ヒトの認知に近づくことができる。教師が生徒とコミュニケーションをとるときに、大きな助けになるだろう」と話した。

さらに、スタディーログによる個別最適化された学習が目指す世界観について、稲田氏は「学習者の意思と特性に合わせた学びを、いつでもどこでも受けられるようにするべきだ。そのためには、本人の意思でスタディーログが提供されることが重要になる。スタディーログの活用によって、本人と本人以外に利益が得られる社会になってほしい」と説明した。

スタディーログを積極的に活用していく場合、懸念されるのは個人情報の管理方法だ。これには、仮想通貨を技術的に支える仕組みとして知られるようになったブロックチェーン技術を活用する案が浮上している。

圷氏は、学習者のスタディーログを記録したファイルを関数で暗号化してブロックチェーンに記録する技術を紹介。アプリのバッジデータと照合するデジタル証明機能を使って、いつでもどこでも取り出して活用できる仕組みを説明した。従来のネットワークのリスクが中央サーバーに集中しているのに対し、ブロックチェーンは分散データベースで、中央管理者がいないことをメリットに挙げた。

小野氏は、スタディーログと知的財産を巡る権利について報告。今後、少子化が進展する中で学校が破綻する時代に備え、スタディーログを本人がいつでも使えるように「学びのトークン」としてブロックチェーン上に保管する必要性を語った。

ブロックチェーン上にスタディーログを管理する場合、コスト面も気になる。橋田氏は今後、個人がAIによるスタディーログの分析で自分に最適なサービスや商品を得る仕組みが普及し、個人情報を守る一方で、ビッグデータとして活用される未来予想図を披露。

その過程で生まれるデータビジネスがGDPの20%にも達するとの見通しを示し、このデータビジネスによる収益の一部をブロックチェーン上のスタディーログの管理費用に充てることが可能だ、と説明した。

「スタディーログの活用によって、個人が良くなり、企業も社会も良くなるためには、何が重要か」。セッションの最後に、石坂氏はパネリストにこう問い掛けた。

橋田氏は「学習者本人を一番に考えるべきだ。この機会を捉えて、学習データのポータビリティを確立してほしい。そうすれば、学習者は本当の意味でどこでも学ぶことができるようになる。『脱学校社会』もその流れの中で見えてくるのではないか」と述べた。脱学校社会は哲学者イヴァン・イリッチが1970年代に提言し、世界的な反響を呼んだ学校制度の撤廃論だ。

これを受けて、小野氏は「脱学校社会は70年代から言われているが、壁を崩すのは容易ではない。だが年々、学習者が前に出てきていることは間違いない。スタディーログは本人が活用することが大前提だ」と述べ、討論を終えた。


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