シチズンシップ教育の学会創設 発起人、水山教授に聞く

社会の多様化や成年年齢の18歳への引き下げなどを受け、日本の学校現場では今、さまざまな教科などでシチズンシップ教育の実践が広まっている。12月15日には、東京都渋谷区の青山学院大学で「日本シティズンシップ教育学会」の設立記念シンポジウムが開催される。シチズンシップ教育を研究対象とした学会を創設することとなった経緯について、発起人の一人で同学会設立準備委員会委員長の水山光春・青山学院大学特任教授に12月12日、インタビューした。


シチズンシップ教育を研究する意義
――日本でもシチズンシップ教育の実践が広がりつつあるが、シチズンシップ教育はこれまでの日本の主権者教育などと、どう違うのか。

私は、シチズンシップ教育を「一言でいうと、一人前の大人意識を育てる教育だ」と説明している。日本で行われている主権者教育も、選挙への投票を促すだけにとどまらず、ポリティカル・リテラシーを育てる教育として広く捉えるならば、シチズンシップ教育と重なる部分も多い。

シチズンシップ教育を研究する意義について話す水山教授

ただ、主権者教育が政治的な視点に重きを置いているのに対して、シチズンシップ教育は文化的・社会的に考えることも重視しているという違いはあるかもしれない。

また、手段と目標の関係でいうと、シチズンシップ教育の目標はそれほどはっきり定まっているわけではない。例えば最近、学校では国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえたESDが盛んだが、既知のゴールやターゲットに向かって何をすべきかを考える一方で、果たしてそのようなゴールやターゲットでよいのかを立ち止まって考えることもシチズンシップ教育では大切だ。

つまり、シチズンシップ教育では、多様な考え方や価値、ゴールが存在し、それらがどう語られ、相互に関連したり、あるいは対立したりしているのか。そうしたことを丁寧に議論していくプロセスこそが大切だと考えている。

シチズンシップ教育に関心を持つ諸外国においても、多様な捉え方がされている。シチズンシップ教育発祥の地、英国では最近、政治の教育から価値の教育に変化しつつあるし、中国では政治的な面よりもモラルを重視している。米国では、人種問題や移民問題を扱う教育として研究されているなど、シチズンシップ教育はそれぞれの国柄も反映されていて、明確な答えはない。

「シチズンシップ教育とはこうあるべきだ」と決めつけてしまうことこそ、危険だと考えている。日本もまた、日本型シチズンシップ教育とは何かについて、議論を重ねていくことが大切だ。

――学会を設立することになったきっかけは。

を研究する学会をつくろうという話は、10年ほど前から関係者の間で話題には出ていたものの、なかなか実現にまで至らなかった。これまでもシチズンシップ教育が日本で議論されてこなかったわけではない。日本教育学会をはじめ、さまざまな教育系の学会でも取り上げられてきたことは確かだ。

しかし、それらはあくまでも、既存の学会の枠組みでシチズンシップ教育を捉えようというもので、シチズンシップ教育の観点から、さまざまな教科や教育活動を捉え直そうとはしてこなかったし、例えば異なる教科の学会がコラボレーションしてシチズンシップ教育を議論するといったようなこともなかった。

シチズンシップ教育は特定の教科の中にとどまるものではなく、関連する学問分野も教育学、政治学、社会学、心理学、哲学、宗教学など多岐にわたる。多義性や多様性のあるシチズンシップ教育を研究するためには、これを運動として捉えるのではなく、一歩引いて俯瞰(ふかん)しながら、多角的・多面的に検討していかなければならない。学会を立ち上げることによって、さまざまな専門領域からシチズンシップ教育にアプローチし、互いに議論するアリーナをつくろうと考えた。

シチズンシップ教育の4つのキー概念
――さまざまな課題を抱えている学校教育の中で、シチズンシップ教育を展開する上での課題は何か。

学校の教育活動におけるシチズンシップ教育の領域

さまざまな課題を抱え、多様な教育活動が展開される学校の中で、シチズンシップ教育は図のように、学校全体で今日的な問題を取り上げるときに重要な役割を果たすのではないかと考えている。そうした活動はすでに学校の中で多く展開されているはずで、シチズンシップ教育として新たに何かを始める必要はない。これまでの教育活動をシチズンシップ教育として捉え直して整理し、さまざまな教科や活動の中で子供が身に付けた知識や技能、態度をシチズンシップとして統合することとして捉えてはどうだろうか。

その際、シチズンシップのキーとして4つの概念があるのではないかと考えている。1つ目は批判的にものをみること、2つ目は公正であること、3つ目は参加すること、4つ目は責任感だ。

このうち、参加の捉え方が最も難しい。ボランティアに「参加」したり、香港のようにデモに「参加」したり、あるいはフェアトレードの商品を購入したりと、さまざまな「参加」の形がある。また、明確な問題意識や意図を持って「参加しない」ことも、ある種の「参加」であるかもしれない。そう考えていくと、「参加」の対義は不参加ではなく「無関心」で、これが最もやっかいだ。

現代社会は短絡的に考えたり、結論を急ぎすぎたりする傾向にあると感じる。しかし、本来の民主主義社会とは、対立する考えにも目を向け、じっくり検討し、結論を出していくことを原則としている。自分と異なる意見を持った他者とじっくり対話し、そうした考えにも理解を示した上で、自分の意見を説明し、議論を重ねていくようなことが、教育の場だけでなく、社会に求められているのだと思う。

――どのような学会を目指していきたいか。

シチズンシップ教育を運動ではなく研究する場としての学会にしたい。シンポジウムでは、グローバル・シチズンシップをテーマにした講演をはじめ、さまざまな学問分野からシチズンシップに関わる研究者・実践者が登壇する。まさにシチズンシップ教育から、さまざまな教育活動を捉え直すきっかけになると期待している。

学会の会員は現時点で約50人と小規模だが、全国大会や学会誌を発行するなどして、シチズンシップ教育の実践者や研究者を応援し、育てていきたい。


【プロフィール】

水山光春(みずやま・みつはる) 青山学院大学特任教授。京都教育大学附属桃山中学校教諭、同大教育学部教授を経て現職。専門は社会科教育、環境教育。全国社会科教育学会理事、日本公民教育学会理事、日本シティズンシップ教育学会設立準備委員会委員長。著書に『「18歳選挙権」時代のシティズンシップ教育―日本と諸外国の経験と模索―』(法律文化社、共著)、『授業が変わる! 新しい中学社会のポイント』(日本文教出版、共著)など。

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