両翼失った共通テスト 1点刻みからの脱却、どう共有

12月17日、萩生田光一文科相は2021年1月に実施される大学入学共通テストでの記述式問題の実施見送りを表明した。これにより、高大接続改革の目玉だった共通テストは、英語民間試験の活用に加え、記述式問題の出題という両翼を失ったことになる。その代償として、今後、文科省はこの経緯を検証するとともに、1点刻みの大学入試から脱却し、新たな大学入試のシステムの姿を描き直さなければならない。その際、高大接続改革や新たな大学入試の狙いが、大学や高校だけでなく、広く国民と共有されなければ、同じ失策を繰り返すことになりかねない。そうした議論に向けて、まずは、英語民間試験の延期から始まった共通テストを巡る今日までの動きを振り返る。
社会問題化した英語民間試験の活用
共通テストを巡っては、9月に全国高等学校長協会(全高長)が文科省に対し、英語民間試験の活用延期を要望したことを発端に、一気に社会問題化した。来年4月からの開始を前に、試験実施団体や大学の方針が受験生に伝わってこなかったことや、地域間格差、経済格差の問題の解消が不十分というのが、その理由だった。 特に後者では、萩生田文科相が出演したテレビ番組で「自分の身の丈に合わせて勝負してもらえれば」と述べた「身の丈発言」に対する批判も追い打ちをかけた。この問題は臨時国会の争点ともなり、野党が追及。10月30日の衆院文部科学委員会の質疑で萩生田文科相は「仮に今の状況より混乱が進むような事態が新たに確認できるようなことになれば、考えなくてはならないという気持ちもある」と答弁。その2日後の11月1日、萩生田文科相は20年度からの活用延期を表明するに至った。ちょうどその日は、大学入試センターで英語民間試験の活用に必要な共通IDの発行開始というぎりぎりのタイミングだった。
世間の納得を得られず
その後、国会での争点は英語民間試験から記述式問題にシフトする。採点業務を請け負った学力評価研究機構がベネッセホールディングスの関連会社であり、秘密保持や利益相反の問題を指摘されたことに加え、採点者の中に大学生のアルバイトも含まれる可能性があることが明らかとなるなど、採点の正確性や公正・公平性に疑念が生じた。 さらに、プレテストの国語の記述式問題で、自己採点と実際の採点結果が一致しない割合が3割に上ることを踏まえ、本番でも国公立大学を受験する受験生の志望校選択に影響が出るとの声も上がった。 また、共通テストの記述式問題では、解答のぶれを小さくするため、条件を細かく設けるなどしたため、かえって思考力は測れなくなっているとの指摘も出た。 これらの疑念・指摘に対し、大学入試センターは記述式問題の採点業務を想定した模擬テストを実施したり、学力評価研究機構では採点者の採用や研修、採点体制について公表したりするなどしたが、世間は納得しなかった。 決定打となったのは、12月5日に公明党が共通テストでの記述式問題の見直し・延期を文科省に求めたことだ。萩生田文科相はすぐに、記述式問題の導入延期の検討を否定するコメントを公表したが、翌日に提言を文科省に提出した自民党も、延期は明記しなかったものの、早期の対応策の検討を迫る形となった。 17日の閣議後の記者会見で萩生田文科相は記述式問題の見送りに至った理由として①現時点で採点体制を明示できない②採点ミスを完全になくすことには限界がある③自己採点と採点結果の不一致を大幅に改善することは現時点では難しい――の3点を挙げ、年内に設置する検討会議で、英語4技能の評価の在り方と合わせて記述式問題についても1年間かけて議論していく考えを示した。
今回の教訓をどう生かすか
23年度までの延期となった英語と異なり、記述式問題は期限が設けられておらず、検討会議の議論によっては、このまま記述式を出題しないという結論もあり得る。また、課題解消のめどが立ち、記述式問題を出題することとなったとしても、2~3年程度の十分な周知期間を設けることとなるため、21年度以降にすぐ記述式問題が出題されることは考えにくい。 受験生の英語4技能を評価することや記述式で思考力を問うことについては、各大学の入試で測ることも検討される必要がある。各大学であまりに異なる対応を取れば、受験生の負担や混乱がかえって大きくなる懸念もある。 延期・見直しを決断した文科省には、改めて、慎重な議論を踏まえた上で、受験生の立場に立った無理のない新たな大学入試システムの構築が求められる。 一方で、今回の議論では、1点刻みの大学入試制度からの脱却を図ろうとする高大接続改革の狙いに対して、世論が従来型の入試のイメージを捨てきれなかった側面があることも否めない。今後の日本の大学入試はどうあるべきか。今回のことを教訓に、国民的議論を展開する必要があると言える。

(藤井孝良)


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