「子供たちの挑戦 後押しを」鈴木大地・スポーツ庁長官

オリンピック・パラリンピック東京大会は日本の教育とスポーツの在り方をどう変えるのか。鈴木大地・スポーツ庁長官は「生涯にわたってスポーツに親しみ、健康な人が世の中にあふれるようになること」と答え、『スポーツインライフ』の実現を東京大会のレガシーとする意欲を示した。また、アスリートの育成について「競技人口の多いスポーツではレギュラーになれなくても、別の競技では日本代表になれるかもしれない。どんどんチャレンジをしてほしい」と話し、子供たちが多様な競技や指導者から学ぶ重要性を強調した。


スポーツインライフの実現を
――スポーツに対する関心が高まっています。
東京大会のレガシーについて語る鈴木長官

フェアプレー精神やスポーツマンシップといった、スポーツの良さが広まっていると感じています。

アスリートが学校を訪問し、子供たちと交流する機会も増えました。児童生徒にとっては、普段はテレビでしか見られないアスリートと夢のような時間を一緒に過ごせる。アスリートのプレーを目の前で見ることができ、スポーツの素晴らしさや美しさ、努力を積み重ねることの大切さなどを学んでいるのだと思います。

――東京大会によって、日本のスポーツにどのようなレガシーが残るのでしょうか。

卓越や友情、敬意、尊重などのオリンピックの価値観、そして、勇気や決意、公平、インスピレーションなどのパラリンピックの価値観が、大会を通じて広まっていくでしょう。さまざまな競技を見て、やってみたいと思う子供や関わりたいと思う人も増えるのではないでしょうか。

人々が生涯にわたり心身共に健康でいられるために、スポーツは欠かせません。日本では、小中学校段階でも日常的にスポーツをする子供としない子供が二極化しており、高校の部活動を引退するとスポーツをしなくなってしまう傾向にあります。女性のスポーツ実施率も低い。

スポーツ界だけでなく外部とも連携を図りながら、生涯にわたってスポーツに親しみ、生活の中にスポーツを取り入れる「スポーツインライフ」の実現を目指したいと考えています。

東京に大会を招致したことで、国民がスポーツを通じて健康な人が世の中にあふれるようになることが、一つのレガシーです。

さまざまな競技に挑戦する可能性
――東京大会は、部活動をはじめ、学校におけるスポーツにどのような影響を与えるでしょうか。

現状の部活動は地域によってさまざまな課題を抱えています。持続可能かと問われれば、疑問符が付く。さまざまな人材を活用して、地域に合わせた部活動を展開していくべきです。

日本のスポーツや教育はどう変わっていくのか

私は、日本オリンピアンズ協会の会長をしているのですが、オリンピアンやアスリートのセカンドキャリアとして、研修を受けた上で部活動に派遣することも、部活動の指導者確保という問題の解決には有効だと考えています。

他方で、今年の高校インターハイの開催が危ぶまれているという話も聞いています。これからは、スポーツイベントを経済的に捉えていく視点が必要です。例えば、ラグビーワールドカップでは、外国人観光客が大会に合わせて国内を観光し、経済面で大きなインパクトがありました。

これほどまでとはいかないかもしれませんが、同じ志を持った全国の高校生が一堂に集まることで、その地域が活性化することは間違いない。インターハイの開催に向けて、自治体はぜひ、前向きに協力してもらいたいと思っています。

――近年は中学生や高校生のオリンピアンも誕生しています。アスリートの発掘、育成面での取り組みの課題は何でしょうか。

競技人口の多いスポーツでは、実力があってもレギュラーになれない一方で、マイナーなスポーツではアスリートの発掘に苦慮している。そこで、スポーツ庁では「J-STARプロジェクト」として、実力や才能のある選手が別の競技に挑戦することを支援しています。

その競技ではトップになれなくても、別の競技では日本代表になれるかもしれない。どんどんチャレンジをしてほしいし、指導者は子供がその競技以外のことに挑戦することを後押ししてほしいと思います。

これからは、体の特定部位のオーバーユースを防ぐ意味でも、子供たちがさまざまな競技を体験することが重要になってくるでしょう。子供が多様な競技や指導者と触れることになるので、指導者側にとっても、自分自身の指導法を見直すきっかけになるのではないでしょうか。

――読者へのメッセージを。

若い人たちの潜在的な能力を低く見積もらずに、可能性の芽を摘まず、どんどん水をあげ、日なたをつくり、養分を与え、一人一人の子供が大きな花を咲かせられるような、そんな教育をしてほしいと思います。

特にスポーツ指導に当たる教員や指導者は、さまざまなスポーツ、競技に子供が挑戦することを応援し、その子供が一番輝ける場へ導いてほしい。そのためには、指導者もいろいろなものを見て、吸収し、見聞を広める努力が必要です。

【プロフィール】

鈴木大地(すずき・だいち) スポーツ庁長官。1988年ソウルオリンピック大会に出場し、水泳100メートル背泳ぎで金メダルを獲得。順天堂大学教授、JOC理事、日本水泳連盟会長などを歴任し、2015年にスポーツ庁の発足に伴い初代長官に就任した。


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