【1人1台時代】文科省課長級6人、未来の学校を語り合う

国立教育政策研究所(国研)は2月3日、高度情報技術を教育の質向上に生かしていく方策を考えるシンポジウム「『教育革新』プロジェクト・フェイズ1」を都内で開き、初等中等教育局などの文科省の課長級6人が顔をそろえ、高度情報技術を学校現場に生かしていく道筋や、未来の学校のイメージなどを語り合うパネルディスカッションを行った。参加した約300人からオンラインで受け付けた質問が壇上のスクリーンに映し出され、それに登壇者が答える双方向型の議論も行われ、オープンな議論を印象づけた。

 

シンポジウムの冒頭、中川健朗・国研所長は「高度情報技術を教育に生かすのは、効率よく学ぶためではない。私たち自身の考えや問いを深めていくために高度情報技術をどう生かしていくか。そこに目的がある」と述べ、入試に向けた効率的な知識の習得よりも、深く学ぶためにICTをどう活用するかが問われているとの問題意識を示した。

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スクリーンに映し出された参加者の質問をみながら、議論する文科省初等中等教育局の課長たち

パネルディスカッションでは、まず、モデレーターを務めた木村直人・大臣官房会計課長が「学校教育にはこれまで積み上げたものがある。だが、新しい高度情報技術によって可能になる子供や学校教育の未来の姿は、従来の延長線上では語ることができない。その姿をイメージしてほしい」と、議論の口火を切った。

新学習指導要領を所管する板倉寛・教育課程企画室長は「高度情報技術の役割は学習環境をどう良くしていくかにある。先にICTがくるわけではない。これが大前提となる」と指摘した上で、「その際には、人の役割を常に意識しなければいけない。先に人があって高度情報技術がある。人としての強みにより集中できる高度情報技術の在り方を考えなければならない」と話した。

学校のICT環境整備を所管する髙谷浩樹・情報教育・外国語教育課長は「ICTは特別なものではなく、学校で普通に使うものだ。これがまだまだ学校現場に浸透していない。日本の子供たちは、スマホやゲーム機にはなじんでいるのに、パソコンを学習に使うものだと思っていない」と、学校現場の現状に言及。

日本は教育へのICT活用が先進国で最も遅れているとの結果が出たPISA調査を示し、「保護者は子供がパソコンに向かっていたら『遊んでいないで、勉強しなさい』と言っていないか。自治体の財政部局や首長も、学校の学びでICTを使うのが普通だという理解がなかった。日本の社会全体が学びとICTを連携させてこなかった」と厳しく語り、「ICTを文房具のように使う学校現場になってほしい」と訴えた。

桐生崇・学びの先端技術活用推進室長は、動き出しているGIGAスクール構想によって1人1台端末が実現したとき、その先に何が起きるか、を取り上げた。学習履歴のデータ化によって、(1)蓄積されたデータを本人が活用する(2)データを活用して個別最適化された学びがやりやすくなり、先生の指導やアプリ教材による学びに活用される(3)匿名加工されたデータがビッグデータとして社会のさまざまな分野で活用される――の3点を挙げ、「個人情報の扱いなどについて技術や法制度の課題はある。だが、こうした方向はおおむね共有されている」として、技術開発や法制度の整備が順次進んでいくとの見通しを示した。

その上で、未来の教育のキーワードとして(1)知識・技能は速度の差こそあれ、みんなが習得可能になる。テストの意義や評価の在り方が問われる(2)学び方が一人一人に最適な形になるので、特別支援や不登校といった「タイプ分け」が不要になる。一方で、同じグループなどで「人から学ぶ」ことがより重要になる(3)どうなるか分からない未来社会では、リアルな課題に対して試行錯誤を続けることになる。幸福に生きるためには、生涯を通じて学んでいくことになる――の3つを示した。

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中野理美・教科書課長は、デジタル教科書や教材の考え方を説明した。それによると現在、小学校の教科書319点のうち、対応するデジタル教科書の発行数は64点。「現状はデジタル教科書への対応は20%程度だが、これが新学習指導要領が全面実施される今年4月からは94%になっていく。だが、実際にデジタル教科書を使うかどうかは市町村教委の判断だ」と指摘。

昨年10月時点で市町村教委に聞いた結果として、域内で1校でもデジタル教科書を使っていると答えたのは7.8%で、今年4月以降に導入を検討していると答えたのは16.5%だった、と説明した。

続けて「GIGAスクール構想によって、市町村教委も大きく動いていくと予想している。今後はデジタル教材をどう充実させていくか、いろいろな可能性を研究することが大事だ」と述べ、特別支援教育や日本語が通じない生徒への教材としてデジタル教科書の可能性が大きいと指摘した。

俵幸嗣・特別支援教育課長は、体が不自由な子供たちが視線による入力や、口にくわえたペンツールを使った入力によって描いた絵画や、病気療養中の子供が病院と学校をインターネット回線でつないで授業を受ける様子など、ICT活用によって初めて可能となる特別支援教育の姿を紹介した。

「病室で授業を受けていた子供が、元々通っていた学校に復学するときに、病院と学校をつないで、事前にクラスの仲間とコミュニケーションをしておくと、実際に学校に通い始めたときに打ち解けやすくなる。例えば、療養のために髪の毛が抜けてしまった子供が、学校に戻っていじめにあわないようになるといった効果も聞く」と、ICT活用が特別支援教育にもたらす可能性や効用を説明した。

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続いて、会場の参加者がオンラインで投稿した質問が壇上のスクリーンに映し出され、質問内容を会場全体が共有しながら議論が広がっていった。

中野課長が「高度情報技術を使った授業では、先生たちが伝え方を導くところがある。以前に紙の教科書とデジタル教科を併用している学校を見学したところ、先生がデジタル教科書を使い始めたら、子供たちの意欲がすごく増していくところをみた」と話すと、すかさず会場から、教師に期待される役割について質問が出た。

この質問を受けてモデレーターの木村課長が「個別最適化された学習をやるとき、誰が一人一人の生徒をみながら個別最適な学習ができる方向に導くのか。学校現場の個別最適化を実際にどうやって進めていけばいいのか」と問題を提起。

髙谷課長は「こういう議論をしていると、教師とICTが対立するようにとらえられ、『教師はいるのか、いらないのか』という話になってしまう。けれども、そうではない。世の中がICTを普段使いしているのだから、先生もICTを普段から使っていかなければならない。子供たちがICTを使って学んでいくときに、先生がどう進めていくかが課題になる」と指摘。

その上で「まず先生たちにはICTを使ってもらう。さらに、その先に何があるのか、について、こういうシンポジウムなどで議論して、どんどんメッセージとして発していくことが大事。(先生も文科省も)それぞれが走って行かなければならない」と話した。

「そこに一番大きな壁がある」。こう指摘した木村課長は「なぜ学校現場でICTが使われないのか。そこを乗り越えるために具体的に何をするべきなのか」と問いかけた。

板倉室長は「新学習指導要領が全面実施される中で、先生方にどの教科でどのようにICTを使ってもらうか、その姿を具体的に共有していくことが非常に大事だと思っている。そのための準備をいま全力でやっている。例えば、地理では児童生徒一人一人が白地図でいろいろなものを調べ、その内容を重ね合わせることで地域の姿が見えてくる、といったことを考えている」と説明した。

桐生室長は「未来の教育を論じるときに、たぶん今の延長線上に答えはない。海外にもどこにも答えはない。『こうすればいい』という未来像がどこにもない中で、みんなで合意できる姿を追っていくことになる。そう考えると、きょうのような対話型のやり方は面白い。これからも議論をしていきたいと思う」と話した。

国研は、高度情報技術の進展による教育革新の展望と実現に向けた課題を整理する研究として、本年度から3年間かけて「高度情報技術の進展に応じた教育革新に関する研究プロジェクト」に取り組んでおり、今回は2回目のシンポジウムにあたる。

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