「蔵書少なく、格差大きい」 乳幼児施設と本の環境を初調査

乳幼児の保育・幼児教育の質の重要性が注目される中、全国の保育・幼児教育施設を対象とした絵本と本の環境実態調査が初めて実施され、共同研究を行っている東京大学発達保育実践政策学センターと児童書出版社のポプラ社が2月19日、結果を公表した。保育・幼児教育施設は小中学校と比べて蔵書数や予算が大幅に少なく、施設による格差が大きいことが判明した。今後は、絵本の読み聞かせと動画視聴が乳幼児の発達に与える効果の違いを調べるなど、実証的な共同研究を展開していく考えだ。

 

本と教育現場の関係では、小学校以上の全ての学校に対して学校図書館法で図書館の設置が義務づけられ、蔵書数や年間予算などの実態について、全国学校図書館協議会が毎年調査している。これに対し、保育・幼児教育施設については、絵本や本の整備や活用を義務づける法的な枠組みがなく、その環境の実態についても全国調査による実証データが存在しなかった。

このため、東大発達保育実践政策学センターでは、ポプラ社が全国の保育・幼児教育施設3万3566園に出しているダイレクトメールに同封してアンケート調査を発送。1042園(認可保育所611園、幼稚園301園、認定こども園80園など)から回答を得た(回収率3.1%)。回答は全国から寄せられており、極端な地域の偏りはみられなかったという。

アンケート調査の結果によると、子供1人当たりの平均蔵書数は、小学校32.0冊に対して▽認可保育所7.7冊▽幼稚園12.3冊▽認定こども園9.9冊――にとどまっていた。また、子供1人当たりの年間予算の平均は、小学校1543円に対し、▽認可保育所615円▽幼稚園583円▽認定こども園641円――だった。

保育・幼児教育施設で所有している絵本の冊数を聞いたところ、300冊未満と回答したのが、認可保育所では30.8%を占めたのに対し、幼稚園では9.8%、認定こども園では7.7%となっており、施設形態によって蔵書数に差があることがわかった。また、蔵書が少ない施設ほど、近隣の図書館や児童館などを活用する頻度が高い実態もみえてきた。
高橋翠・同センター特任助教は「園児数と設立年数の変数を加味すると、施設間格差はかなり見えなくなる。今後の格差解消を考えるときには、設立年数が効いてくるのではないか」と述べ、設立して間もない施設では、自治体の助成などで意識的に絵本や本の環境を整備する必要があるとの見方を示した。

蔵書数が小学校よりもかなり少なく、施設による格差がみられるにもかかわらず、施設側が現在の蔵書数に不満を感じていない実態も浮かび上がった。

絵本の蔵書数が十分だと思うか聞いたところ、「そう思う」と「ややそう思う」を合わせた肯定的な回答を寄せた施設は▽認可保育所64.9%▽幼稚園75.7%▽認定こども園72.1%。

遠藤利彦・同センター長は「現在の保育や幼児教育では、絵本や本を用いることが必ずしも前提とされていない実態がみえてきた。絵本や本の必要性に関する認識は、相対的には低いという結果になった」と分析した。

調査結果を説明する高橋翠・東大発達保育実践政策学センター特任助教

共同研究では今後、ウェラブル・アイトラッカー(視線計測装置)を用いて、絵本の読み聞かせと動画視聴時による脳活動の違いを計測するほか、絵本や本の環境整備を巡る好事例の収集などに取り組む考え。

千葉均・ポプラ社社長は「子供たちが強く生きる力を身につけるには、面白がる力が大切だと思う。面白がる力の源は、乳幼児期の親子の愛情あふれるコミュニケーションだと考えている。共同研究によって客観的なエビデンスが得られれば、さらに自信を持って絵本を通じた親子のコミュニケーションを推進する活動ができる」と述べ、今後の研究成果に期待を掛けた。

最後にあいさつした秋田喜代美・東大教育学研究科長は「日本は戦後、いち早く全ての学校に学校図書館を置くと決めた。そこには、多様な本との出合いが民主主義の基本との考え方から、子供たちを取り巻く本の環境を豊かにしようという公教育の思想があった」と、日本の公教育と本の歴史を説明。

「今回の調査では、経済格差が問題とされる中、保育所や幼稚園によって格差や散らばりが大きい実態が浮かび上がってきた。新設された園では本当に本が不足していて、地域の図書館が支えている実態もみえてきた。今後、しっかりしたデータとエビデンスに基づいて、どうやって子供たちに豊かなメディア環境を保障すればいいか考えていきたい。きょうはその第一歩だ」と述べ、共同研究の狙いと意義を強調した。

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