議論の的は「質」確保 幼児教育・保育で国際シンポ開催

幼児教育・保育に従事する保育者(幼稚園教諭、保育士などに相当)を対象に、経済協力開発機構(OECD)による初の国際比較調査の結果を受け、国立教育政策研究所(国研)は2月20日、OECDやノルウェー、韓国の当局者が参加する国際シンポジウムを開いた。各国の共通点として、幼児教育の質を高めるために社会情緒的発達を促す実践を重視する傾向があることなどが報告される一方、日本の特徴として、子供の心情を丁寧に見つめて質を高めていく手法や、幼小接続の意識が相対的に高いことなどが指摘された。日本の幼児教育・保育を国際的な視点で論じる貴重な機会となった。

調査概要を説明する小原ベルファリゆりOECD教育スキル局幼児期・学校課長

この国際比較調査は昨年10月にOECDが公表した「国際幼児教育・保育従事者調査」(TALIS Starting Strong)。小中学校の教員を対象とした国際教員指導環境調査(TALIS)と区別して、幼児版TALISとも呼ばれる。日本を含む世界9カ国で保育者を対象に、幼児教育・保育の実践や職能開発、仕事への満足度などを調べ、結果を比較した。

保育者のストレス 理解が必要

シンポジウムでは、調査に当たった小原ベルファリゆりOECD教育スキル局幼児期・学校課長が基調講演として概要を説明。情報通信技術がもたらす問題として、調査に参加した多くの国でネットいじめが問題となっているほか、適切な運動量や体力の不足など乳幼児の健康も各国共通の関心事になっている、と述べた。

さらに「幼児教育・保育の質がどうなっているかが、日本も含めて議論の的だ」と述べ、幼児教育・保育の質に関する国際的なモニタリングの重要性を指摘。質を向上させるために、読み書きや数え方の発達を促すよりも、子供たちが互いに助け合う活動を行うなど社会情緒的発達を促す実践を重視する傾向が各国共通でみられる、と説明した。

また、日本の保育者が各国と比べて社会的な評価が低いと感じているとの調査結果について、ベルファリ課長は「ほとんどの国では、保育士は社会的にも保護者や子供からも評価されていると感じている。なぜ、日本で保育者が社会から評価されていないと感じているのか、大きな問題だと思う」と話した。

その上で、「スタッフが不足している。担当する子供の数が多すぎる。事務的手続きが多すぎる。保育者たちは多くのストレスがあると答えている。そのストレスを理解することで、保育者たちがどのようにストレスを乗り越えていくか、気付くことができるかもしれない」と述べ、幼稚園教諭や保育士が抱えるストレスを社会的に共有し、対応策に取り組むよう促した。

日本の保育は「質と平等への挑戦」

続いて、2人目の基調講演に立った秋田喜代美・東大教育学研究科長は、国際的にみた日本の幼児教育・保育の特徴と課題を報告した。まず、日本では少子化と都市への人口集中が進む一方、保育者の不足も続いている現状に触れ、保育士の離職率が9.1%(公営5.8%、私営10.8%)と高水準にあると指摘。「日本の保育は質と平等への挑戦だと考えている」と問題を提起した。

基調講演を行う秋田喜代美・東大教育学研究科長

続いて、世界各国でも幼児教育・保育を巡る管轄の一元化が問題になっている実情を示し、「欧州は乳児と幼児で施設が割れている。日本は幼稚園と保育園で割れている。どのように一元化するかが問われている」と話した。

その上で、日本の幼児教育・保育が持つ4つの特徴を挙げた。第1に、育てたい資質・能力(コンピテンシー)として、知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力などは国際的に共通する部分のほかに、育ってほしい「姿」を強調し、具体的な子供の様子を見ながら心情を察して育ちのプロセスとして捉えることを挙げた。

さらに5歳児の段階で育ってほしい姿を元に小学校以上との連続性を見通し、幼小接続を意識していることに触れ、「幼児教育・保育の保育者と、小学校の先生が同じものを目指している。これは日本の教育の非常に優れたところだ」と強調した。

第2に国のカリキュラムが総合的、統合的で、健康・人間関係・環境・言葉・表現という5領域を掲げる独自性を持つこと。第3に、遊びの重視として、環境を通した教育や、子供の好きな遊びや戸外遊び、四季の自然や命あるものとの出合いを大切にすること。第4に、子供たちの姿をとらえる記録と共有を挙げ、教育者に実践記録を書き省察する伝統がある、と説明した。

秋田科長は「調査結果を丁寧にみると、背景があって結果になっていると読むことができる。日本の保育の伝統が、デジタル時代になってどう変わってきているのかにも注目したい」と話した。

韓国とノルウェーからも報告

シンポジウムでは、韓国乳幼児保育・教育機関のムン・ムギョン国際研究部長と、ノルウェー教育研究省のトーヴェ・モグスタッド・スリンデ上級顧問が、それぞれ両国の幼児教育・保育の現状と課題を報告した。

ムギョン国際研究部長は、新型コロナウイルス感染症のためインターネット経由で参加。韓国の強みとして、0~5歳児への公的助成を国内総生産(GDP)の1%相当にまで増やした重点施策を説明。弱みとしては、営利目的の事業者が施設を運営している比率が高いことなどを挙げた。

スリンデ上級顧問は、ノルウェーでは、日本と同様に、遊びを重視した幼児教育・保育が定着しているとして、「子供たちにとって遊びは普遍的なもの。日本とノルウェーで共通する価値が確実にある」と話した。また、多様な背景を持つ子供たちに対する教育が注目されており、「保育者の研修でも多様な文化背景を持つ子供への対応がもっとも受けたい項目になっている」と説明した。

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