脳科学と指導巡り麹町中が発表 工藤校長「メタ認知が鍵」

学校改革で知られる工藤勇一氏が校長を務める東京都千代田区立麹町中学校が2年越しで取り組んできた、脳科学を活用した教育環境や指導方法を巡る校内研究発表会が2月26日、文科省内で行われた。脳神経科学の専門家が脳の心理的安全性とメタ認知の関係について説明した後、同校の教員が実践事例を紹介。メタ認知と自己決定を重視したアプローチによって、子供たちが自立的に行動するようになった体験を語った。

校内研究の狙いを説明する工藤勇一・麹町中学校校長

校内研究会は、外部参加者も加わったオープン形式の研究会として昨夏から続けられてきた。この日も新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の影響で一般の参加は見送られたが、教員をはじめ教育関係者ら数十人が会場となった文科省3階の講堂に参集。発表会の様子は民間コンサルタント会社の協力でWEB配信された。文科省による会場提供を含め、公立中学校の校内研究会とは思えない、にぎやかな発表会となった。

冒頭、あいさつに立った合田哲雄・文科省初等中等教育局財務課長は「工藤校長は、公立学校の校長にはこれだけの裁量があることを示した。歴史を振り返れば、時代の歯車を回したのは、自立した変わり者だった。工藤校長と文科省がコラボすること自体が改革チェーンの新しいかたちかもしれない」と述べ、麹町中学校の試みにエールを送った。

続いて、工藤校長と脳神経科学の専門家である青砥瑞人・DAncing Einstein代表が研究の狙いを説明した。

工藤校長は「子供たちに当事者意識がない。子供たちに手を掛け過ぎていて、自分でものを考えなくなっている」と問題を提起。その原因として「教育の目的は、本来、自律した生徒を育成することにある。ところが、いまは手段が目的化している」として、本来は手段であったはずの基礎学力や学習習慣を身に付けることが、教育の目的となってしまっている現状を批判し、解決のアプローチとして「ひとつが生徒、教師、保護者が一緒になった学校の経営改善。もうひとつが脳科学だ」と説明した。

青砥代表は、脳内の信号伝達の仕組みが解明されたことで脳の研究が飛躍的に進み、心理的安全性が学習に重要なことがわかってきた状況を説明。「脳には、心理的安全状態と、ストレスがかかった心理的危険状態がある。人間が何かを知るためには脳に記憶させなければならないが、脳が心理的安全状態にあるときに記憶することができる」として、学習には「いかに子供たちに心理的に安全な状態を持ってもらうかが重要だ」と話した。

また、メタ認知について「自己を、客観的に、俯瞰(ふかん)的にとらえ、自己について、学習(記憶痕跡を残)させる機能」と定義付け、「ポイントは脳を使うか使わないかにある。使うことによって脳は機能する」と解説した。

工藤校長は、青砥代表の説明を教育現場に置き換え、「学校ではトラブルが起きないと勉強にならない。トラブルを学びに置き換えていくときに、メタ認知が鍵になる。子供たちにメタ認知をつけてもらうためには、まず教師や保護者など大人がメタ認知を持ち、自分を書き換えられなくてはならない。これが難しい」と、教師を含めた大人の学び直しの重要性を指摘した。

実践事例の発表では、保護者やスクールアシスタントの外部参加者が「メタ認知を学び、客観的に状況と自分の気持ちを分析できるようになった。この結果、子供が自立していく芽を家庭でつぶさないなど、学校と家庭の最上位目標をそろえることができた」「メタ認知によって自己肯定感が高まり、自分の感情のコントロールができるようになってきた。以前の自分は子供を見守っていたのではなく、見張っていたのだとわかった」などと体験を報告した。

麹町中学校で数学を担当する上田暁教諭は「メタ認知を学んでから、全くやる気のない子供たちのグループに対して、怒りたくなる気持ちをずっと我慢して抑えてきた。あるとき、やる気のなかった子供が同じグループの子供に、やり方を聞くときがあった。聞かれた子供に『教えてあげてよ』と言って見守っていたら、突然、スイッチが入った。タブレット端末を使って、どんどん問題を解き始め、1カ月半で1年生の内容をすべて終わらせてしまった」と体験を披露。

「大人は待てないことが多い。でも、待つことが子供の自立を促すことになると知った」と話した。福岡県糸島市から1年間の派遣で麹町中学校の教壇に立った上田教諭は発表後、「校内研修だけでなく、各地で受けた研修がとにかく面白かった。糸島市に帰ったら、幼児期から小中高まで、同じ最上位の目標を据えて教育課程がつながっていくように働きかけていきたいと考えている」と笑顔をみせた。

生徒指導主任と1学年主任を務める加藤智博主任教諭は、まず麹町中学校の生徒像について「都会にあるので優秀な生徒が集まるからいろいろな試みができるのだろう、とよく外部から言われるが、実態は中学受験に失敗した生徒や、傷ついた体験を持つ生徒が多く、大人が嫌いな状態で入学してくる」と説明。

「そうした子供たちに対して声かけをするとき、脳科学を学ぶ前には『授業に出るのは当然』と言っていた。でも、メタ認知を学んで、声かけの仕方が変わった。メタ認知を高めて自己認知をさせることを繰り返すと、悩みのある子供は自分の言葉で伝えてくるようになる。生徒は自分の行動を自分で決めるようになる。その状態を作るのが生徒指導だとわかった」と体験を伝えた。

加藤主任教諭は発表後、「生徒は自分がやりたいと思ったことは、ちゃんとやる。そうやって自己肯定感がきちんと身につけば、学力は後からついてくる。メタ認知と自己決定を重視したアプローチが本当に大事だと思う」と実感を込めた。

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