【一斉休校】妥当かと課題、留意する点は? 識者の見解

新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の感染拡大を防ぐため、文科省は2月28日、全国の小中高と特別支援学校を対象に、臨時休校するよう要請する通知を出した。この一斉休校は妥当な判断なのか。課題や留意する点は何か。学校教育や医療分野など6人の識者に聞いた。

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「休校中、保護者へ配慮も」
藤川大祐・千葉大学教育学部教授、附属中学校長(学校教育)

いまの状況を踏まえると、この通知はやむを得ない判断だったと思う。特に教員の感染が確認された千葉市では、現場の緊張感の高まりやピリピリしている状況を痛感していたので、国が声をあげてくれたのはよかったと感じる。

ただもう少し段階的、計画的に打ち出してほしかった。情報が錯そうするなかで、昨日の夜に「全国一斉休校」と急きょ発表された。退勤している教職員も多いなか、電話やメールで連絡を取り合い、翌日の対応について検討した。本日は生徒の登校時間を急ぎ1時間遅らせ、職員会議を開き対応策を練った。せめて日中に知らせてもらえていれば。

千葉市では市長主導で、休校中の保護者への配慮が進んでいる。共働きの保護者を念頭に置き、小学校低学年や医療従事者の保護者をもつ児童、特別支援学校の児童生徒など希望する者については、学校を開放し自習できる環境を整える。

休校中自宅で過ごす子供に対しても、規則正しい生活や何か目標を設定して取り組むなど、子供たちが有意義な時間を過ごせるよう指導していく必要がある。

学習面などさまざまな不安や危惧する点はあるが、あとで回復できることはひとまず置き、まずは子供たちの健康と感染を広げないことを最優先に考えたい。

このような状況においても、学校現場にいると生徒たちの連帯意識が強まっていると感じる場面に出合える。このピンチをチャンスに変えられるよう、学校と保護者、子供たちと一丸になって取り組みたい。

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「学力格差の広がりを危惧」
妹尾昌俊・教育研究家、学校業務改善アドバイザー(学校教育)

子供たちの学びの機会が失われることに、学校関係者や保護者、社会は関心を寄せなければいけない。萩生田光一文科相の会見によると、休校中の子供たちは原則、家にいるようにとのことだった。それでは、子供たちはスマホやゲーム、YouTubeざんまいになるだろう。

夏休みなど通常の長期休暇は、学校や自治体でさまざまな学習プログラムがあり、保護者も子供たちの学びについて十分に準備できる時間がある。しかしこのような急な事態では、学校も保護者も準備する手だてが不十分で子供たちの学力格差が広がらないか不安が残る。

感染リスクの低い環境で、何かしらの学習プログラムを用意するなど、「ほったからし」という事態は避けなければならない。

また子供たちのメンタル面の配慮も必須だ。全国一斉休校という事態になり、子供たちの不安は助長されているだろうし、休校中は外出もままならず、ふさぎ込みがちになるかもしれない。

さらに、新型肺炎を巡るいじめ問題にも留意したい。休校中はもちろん休み明けも引き続き、児童生徒の関係性について目を向けてほしい。

4月以降、学校が通常通り稼働するとしても、現場の教員はさまざまな工夫が必要だろう。前の学年から持ち越した学習内容や、休校期間中に広がった学力格差などをフォローしながら、授業を組み立て、学級運営していくことが大切だ。

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「休校解除のタイミングは」
齋藤昭彦・新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野教授(小児感染症専門医)

子供の感染症の専門家として、今回の政府の決定は非常に混乱を生むものだと感じる。

新型コロナウイルスについて中国のデータを見ると、子供の罹患(りかん)率が低いことや、感染した場合でも重篤化する恐れが低いことが分かり、少し安心して見ていた。しかし国内でも全国的に拡大を見せ、北海道など子供たちへの感染も確認されている。

現段階では、それぞれの自治体の状況に沿った対応を取ることが良かったのではないだろうか。例えば、感染者が出ていない状態で休校の措置をとったとしても、感染がどれだけ防げたかなどの効果が全く検証できないし、自治体は保護者や子供に説得力のある説明ができないだろう。

また、いつまで休校するのかという問題もある。

新型コロナウイルスの特徴は、インフルエンザウイルスなどと比べ潜伏期間が長いため、感染拡大防止の措置が非常に難しい。また当初は陰性だったものの、のちに陽性反応が出たという症例も報告されている。

政府はこの1カ月間をピークに、感染者が減っていくと見ているのだろう。しかしこのウイルスの特徴を踏まえた私の見解では、ダラダラと長期的に流行し、4月時点で感染者はさらに拡大している恐れもある。もしそのような事態に陥った場合、どのような根拠をもって休校措置を解除するのだろうか。

休校になり学校での感染は防げるかもしれないが、学童や暇を持て余した子供たちが足を運ぶであろう商業施設などでも、感染リスクは残ったままだ。特に学童は教室よりも狭い空間で密接して時間を過ごすため、感染リスクは高いだろう。

これまでの子供の罹患(りかん)症例を見ると、保護者を介した感染が目立つ。休校が決まった家庭では、外出した保護者から子供への感染に気を付けながら生活してほしい。

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「自宅で子供と過ごせる体制を」
渡辺由美子・キッズドア理事長(子供の貧困対策)

急な学校の一斉休校の要請に対して、世間からの批判が高まっている。もしこのまま新型コロナウイルスの封じ込めに失敗し、経済の停滞や万が一オリンピック・パラリンピック東京大会が中止となってしまった場合の経済への打撃について、政府はしっかり説明すべきだ。

今こそ、全力で新型コロナウイルスを封じ込めるために、全国民が力を合わせなければいけない。そのことを、企業にも家庭にも理解してもらう努力が必要だ。学校を一斉休校することの重要性が国民に伝わっていないのは大きな問題だ。

すでに破産している企業が出ているように、経済的なダメージは甚大だ。この状態が長引くことで影響を最も受けるのは、貧困の状態にある人たちだ。非正規雇用者の仕事がなくなったり、大規模なリストラが行われたりすることが懸念される。そうなれば、学習塾を辞めるだけでなく、進学を断念せざるを得ない子供も出てくるかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。

一方で、臨時休校の間、保護者が仕事を休めないことなどが懸念されている。小学生の子供がいる社員は在宅勤務とするなど、家庭で子供の面倒を見ながら仕事ができる体制にし、どうしても在宅勤務が難しい場合には有給休暇として休んでもらいたい。

有給休暇がないような自営業や非正規の人は休んだ場合には、政府が休業補償をすることをすぐにでも決定し、自宅で子供と過ごせるようにすべきだ。特にひとり親家庭では子供の不安も強いので、できれば率先して子供と過ごすようにしてもらい、また生活の不安がないように休業の際の保証を迅速に取れる体制を整えるべきだ。

その上で、どうしても休めない医療従事者などの子供をどうするかについては、行政がしっかり対応することが必要だ。こうした非常時こそ、地域やPTA、保護者同士のつながりで、そうした家庭の子供を預かるようなことができるとよい。

幸い、現状では新型コロナウイルスの子供への罹患率は高くないようだが、学校は家庭とのコミュニケーションを密に取るようにし、子供の体調に関して何か異変があれば報告を求めてほしい。さらに家の中だけでは子供も息がつまると思うので、何か家庭で過ごす良い方法などがあれば、ぜひ共有してほしい。

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「手洗いだけでなく防犯も徹底を」
宮田美恵子・日本こどもの安全教育総合研究所理事長(学校安全)

感染が広がっていた地域が、学校の臨時休校を判断したのは支持したいが、政府の要請を含め、学校や家庭がどうすべきかもセットで検討すべきだった。突然で先の見えない長期間の臨時休校は、危機管理の盲点を突かれた。ほとんどの自治体でこうした事態を想定したマニュアルはなかったのではないか。想定を超えた場合の対応までを含めて考えておく必要があるという点で、教訓になる。

子供が1日中、1人で留守番をせざるを得ない家庭もあるだろう。「自分で手洗いやうがいをする」「知らない人が急に家に来てもむやみにドアを開けない」など、衛生面と防犯面のルールを紙にまとめて貼るなど、保護者の目の届かないところでもルールを徹底させる必要がある。

学校でも、連絡網などのあらゆる手段を活用して、定期的に子供の状態を把握できるようにしてほしい。健康状態のチェックだけでなく、学校生活と変わらず規則正しい生活ができているか、不安や心配事がないかなど、子供にメッセージを送り続けることが大切だ。

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「家庭と密に連絡を」
衞藤隆・日本学校保健学会理事長(小児科学、学校保健学)

今回の政府の要請は、これまでに経験したことのない非常事態での対応といえる。爆発的な流行や感染拡大を抑え込むことができるか、この1~2週間の対応が重要になる。

臨時休校期間中は、他の感染症での学級閉鎖のときと同様、学校や教職員は家庭と密に連絡を取り、子供の健康状態について情報収集に努めることが先決だ。これらの情報が、いつから臨時休校を解除すべきかの判断材料の一つにもなる。

家庭では、学校が休みだからといって友達と一緒に遊んだり、不必要に出掛けたりすることはしないよう徹底してほしい。厚労省が出している情報を確認しながら、子供に手洗いなどの正しい対策を指導することも大切だ。

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