【一斉休校の現場から】児童とのつながりを絶たない

新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)拡大防止のために、全国の小中高、特別支援学校で一斉に始まった臨時休校。子供たちの家庭学習はどうするか、新年度からの学習計画はどうするか。混乱が続く中、直面する問題や課題について、学校現場はどんな手を講じるべきか。全国連合小学校長会(全連小)会長の喜名朝博・東京都江東区立明治小学校校長に聞いた。


前向きに、最善の措置を

区立明治小では区教委の決定を受け、3月2日から25日までの休校措置とした。

この「全国一斉休校」の要請について、喜名校長は「子供たちの健康と安全を最優先させるという観点から理解できる」と評価する。

一方で、休校開始までの猶予期間が短かったことや、自治体間で取り組みのばらつきがあること、休校中の子供の受け皿となる学童クラブの運営などへの懸念点も指摘する。

「それでも休校措置をとった以上、前向きに考えて、児童のために最善の取り組みをしていかなければならない」と強調する。

4つのフェーズ

喜名校長は今回の休校措置についてロードマップを作成し、4つのフェーズに整理した。

【第1フェーズ:臨時休校開始から1週目まで】
▽緊急対応、学校体制の確立
▽児童の居場所確保(学童保育などとの連携、協力)
▽見通しをもった対応策の検討(第2フェーズへの準備)
▽≪健康≫検温や体調確認など児童の健康管理について保護者に啓発
▽≪生活≫学校がある日と同様に、規則正しい生活を心がける
【第2フェーズ:1週目から臨時休業終了まで(政府の要請では春休み開始日)】
▽人の集まるところへの外出や夜間の徘徊(はいかい)など、生徒指導上の課題の防止
▽精神的不安定な症状が現れる頃。学校や友達とつながっていることを実感させるための情報発信
▽ひとり親家庭など、一人で過ごしている児童の洗い出し、対応
▽給食の中止によって、困難を抱える児童がいないか確認(子ども食堂や福祉との役割分担)
▽第1フェーズから引き続き≪健康≫≪生活≫面での取り組み
▽新学期からの授業の進め方について検討、計画作成
【第3フェーズ:春季休業開始日から終了まで】
▽臨時休校期間と春季休業の区切りを、児童に意識させる。気持ちを切り替え、次年度への準備期間である春季休業の過ごし方について再度確認
【第4フェーズ:新学期】
▽始業式、入学式の運営の工夫
▽不安の払拭(ふっしょく)など、児童の心のケア
▽前学年の学習内容の確認
※新型コロナウイルス感染症の発生状況によっては、健康・安全を最優先に、休校期間の継続も予想される
掲示板で児童と交流

ロードマップによると、同小は取材時、第1フェーズを終えたタイミング。休校要請から目まぐるしい1週間だったが、どのような課題があったのだろうか。

「とにかく、保護者対応については、学校から積極的に情報を発信する姿勢を当初から続けている」。その効果か、保護者からの問い合わせが殺到することはなかったという。

また同小は校内に学童施設を有する。低学年を中心に学童を利用する児童の増加が想定されたが「通常よりも少し増えた程度で、運営体制についても問題ないようだ」と話す。

休校中児童との接点の一つとなる校門前の掲示板

政府の休校要請が出た2月27日の夜から、教員たちは期間中の家庭学習の課題づくりに着手。学年ごとに、それぞれの教科の課題をプリントにまとめた。さらに毎週月・水・金曜日に、各学年のクラス担任教諭連名で「学級だより」を発信する。ホームページやLINE経由で、児童や保護者に届ける。「学級だより」では課題学習のポイントなどを丁寧に説明するほか、「雨の日は家の中でラジオ体操をしてみよう」「好きなことをとことん学習してみよう」など、児童に向けてメッセージを送る。

この学級だよりはオンライン上だけでなく、校門前の掲示板でも公開する。学校の前を通る児童や保護者たちが、日々見ているという。

「アナログな方法だが、意外と効果がある。散歩や公園で遊んだ帰りの子供たちが、掲示板を熱心に見ていく。学校や友達とのつながりを意識するきっかけになっているようだ」

学校とのつながりを切らない

休校期間中、最も大切にすることの一つは、「児童と学校のつながりを切らないこと」だという。

「休校が始まって1週間が過ぎ、児童たちの中にはだんだんと不安が大きくなる子も出てくるだろう。友達と会えないことや自宅に一人でいることは、子供にとって大きなストレスになる。さらにテレビやネットでさまざまな情報に触れ、気持ちが不安定になる子がいてもおかしくない」と危惧する。

3月は、通常でも卒業や進級などがあり、子供たちの心は不安定になりがちだ。

「特に6年生は、中学校へ進学し環境が一変する。本来ならば学校で友達や教師と過ごして、不安の払拭(ふっしょく)や中学校への期待を醸成する期間。それ以外の学年でも、1年間の成長を振り返り、次の学年への準備をする大切な時だ」と、休校期間中も教員と児童ができる限りコミュニケーションをとり続ける大切さを説明する。

具体的な対応策も実行に移し始めた。例えば児童への声掛け。教員が平日午後に近隣の公園を回り、遊んでいる児童たちへ声掛けを始めたという。

また、ひとり親家庭など、日中一人で過ごす児童についてもフォローが必要だ。各クラスの担任が家庭への電話などを通し、支援を要する児童はいないか洗い出しを始めている。

自己調整力を育む機会

学習面のフォローはどうだろうか。家庭学習については、先の「学級だより」などを活用して支援する。

「休校期間に入ってからもホームページなどを通じて教員が具体的に課題を指示し、ポイントごとにアドバイスをする仕組み。また文科省や企業が展開する学習支援サイトを保護者にも積極的に周知し、協力を依頼している」

休校期間中は、児童の家庭学習のばらつきによる、学力格差の広がりが危惧される。「家庭学習はもちろん、学校や保護者の支援が必要。しかし、何より本人の姿勢が一番大切となる。児童には、『休校中は時間割通りに生活してみよう』とアドバイスを送っている」と、喜名校長。

さらに「本来の教育の在り方について考えるきっかけになった」と続ける。

「新たな学習指導要領で示されている『自己調整力』のように、自ら課題を見つけ、学習する姿勢がいかに大切かを実感できた。児童たちの自己調整力を育むために、学校教育はある。休校期間の家庭学習を、これらの力を育むための機会だと捉えて、児童たちを支援したい」

新年度は未知の領域

現場の教職員たちへの影響はどうだろうか。

文科省からは学童保育の人員確保のため、教員が支援することも可能などとする通知も出た。

「授業がなくなったからと言って、業務量や緊迫感は変わらないどころか、それ以上と言っても過言ではない。現場の先生方は本当に頑張ってくれている」

さらに4月からの学校再開を見据え、「これまでどの教員も経験したことのない、未知の領域」と指摘。

「児童たちの学力差がどれだけ広がっているのか、3月分の未履修部分はどこでカバーしていくのか、心理面でのサポートは何ができるか。とにかくこれまでよりも、さらにきめ細やかに児童の状況に配慮しながら学校運営を進めていく必要がある。当校でもすでにそれぞれの教員が、ありとあらゆる可能性を想定しながら、4月からの授業計画や教育計画を練っている」

「休校を前向きに捉えて行動したい」と話す全連小の喜名会長

その一方で喜名校長は、「あくまで前向きに捉えて、行動することが大切だ」と前を向く。

「教員たちの多忙さが軽減されたわけではないが、授業があるときと比べ、まとまった時間を確保しやすくなった。その時間を活用して、毎日2時間ほど全教員が集まって、新年度から使う教科書の内容を研究している。この期間を有意義に活用して、万全の態勢で子供たちを迎え入れたい」

さらに「3月は教員にとっても、特に思い入れの強い時期」と話す。

「中でも6年生の担任教諭や今年度で退職、異動される先生は心苦しいだろう。また今年度で退職される全国の校長先生は、校長としての最後の1カ月、危機管理に徹底して取り組んでいただいていることだと思う。心より敬意を表すとともに感謝を申し上げたい」と語った。

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